欧州理事会議長

欧州理事会議長：EUを導く役割と歴史

欧州理事会議長は、欧州連合（EU）を代表する重要な役割を担う人物です。EUの政治的指針を示す欧州理事会の議長として、国際社会においてEUを代表する第一人者であり、しばしば「EU大統領」と称されることもあります。しかし、これは正確な表現ではありません。

歴史：輪番制から常任制へ

1961年に非公式首脳会合として始まり、1974年に定例化された欧州理事会。当初、議長はEU理事会議長国（当時、欧州共同体）の首脳が半年交代で務める輪番制でした。これは法的な根拠を持たない慣例的なものでした。

しかし、2009年12月1日、リスボン条約の発効に伴い、状況が一変します。従来の輪番制に代わり、任期2年半で再任可能な常任議長が設置されたのです。初代常任議長にはヘルマン・ファン・ロンパイが就任し、その後、ドナルド・トゥスク、シャルル・ミシェルと受け継がれています。

欧州憲法条約では常任議長が既に構想されていましたが、フランスとオランダでの国民投票で否決されたため、リスボン条約で改めて規定されました。常任議長の役割については、当初から議論がありました。単なる議長としての役割にとどまるのか、それともEUを積極的にリードする役割を担うのか、意見が分かれていたのです。

初代常任議長の選出過程も波乱含みでした。様々な候補が挙がる中、トニー・ブレアが有力視されたものの、イラク戦争への関与やイギリスのユーロ圏非加盟などを理由に反対意見も強く、最終的にファン・ロンパイが選出されました。

権能：調整役から外交代表へ

2009年以前の輪番制では、議長国の首脳が議長の役割を担っていました。しかし、その権限は限定的で、議題設定や参加者の選定において、各国益を優先させるといった問題もありました。

2009年以降の常任議長は、欧州理事会の活動調整、会議運営、欧州議会への報告などが主な役割です。また、EU条約では、外務・安全保障政策上級代表の権限を害さない範囲で、共通外交・安全保障政策に関するEUの対外代表を務めることが定められています。しかし、欧州委員会委員長や上級代表との権限の重複や、常任議長が十分な権限と資源を持てるかといった課題も残されています。

待遇と民主性：議論の的となる点

常任議長の待遇も議論の的となりました。当初、欧州委員会委員長と同等の待遇が検討されましたが、最終的に35万ユーロの年収、運転手付き車両、職員20名などが支給されることになりました。専用航空機は「象徴的すぎる」として見送られました。高額な待遇は、欧州議会から批判を受け、議長職の権限強化への懸念につながりました。

また、民主性の観点からも問題提起されています。特に、各国首脳が議長を隠れ蓑にする可能性や、説明責任の欠如などが指摘されています。直接選挙による選出を求める声もありますが、それは欧州議会の権限や欧州委員会との関係に影響を与える可能性があり、容易には実現しません。

欧州委員会との関係：権威と権限のバランス

欧州理事会議長は、加盟国内の役職との兼務は禁止されていますが、EU機関との兼務は認められています。そのため、欧州委員会委員長との兼務も理論上は可能で、EU全体の大統領的な役職創設の可能性も秘めています。

しかし、両職が別の人物によって担われる場合、フランスの半[[大統領制]]のようなコアビタシオン状態や、両者間の権力闘争が発生するリスクがあります。欧州理事会議長は権威はあるものの、欧州委員会委員長のような直接的な権限は持ちません。この関係は、常任議長の民主的正統性が強化された場合、さらに複雑になる可能性があります。

まとめ

欧州理事会議長は、EUを代表する重要な立場でありながら、その権限と役割、そして民主性については、常に議論の的となっています。歴史的変遷や制度的課題を理解することで、EUの政治システムをより深く理解することができます。

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