イーペル

ベルギー、イーペル：歴史と平和の街

ベルギー西部、フランデレン地域に位置するイーペル市は、豊かな歴史と、第一次世界大戦における悲劇的な過去を併せ持つ街です。10の地区から構成され、その歴史は紀元前1世紀まで遡ります。ローマ軍の襲撃を受けた記録があり、中世にはイングランドとの貿易で栄え、人口4万人を超える大都市に成長しました。

中世の繁栄と戦争の影

13世紀にはラシャ工業が発展し、ブリュッセル、ヘントに次ぐフランドル地方の大都市として繁栄しました。ゴシック様式の衣料会館やシント・マールテン聖堂といった壮麗な建造物が建設され、人口は20万人を超えたと推定されています。しかし、戦略的な要衝であったため、度重なる侵略の脅威にさらされ、防衛体制の強化が続けられました。14世紀には土塁が築かれ、その一部は現在も残っています。当時、黒猫が悪魔の象徴とされ、駆除されたという興味深い歴史も伝えられています。この習慣を記念した猫の祭りが3年ごとに開催されています。その後、土塁はより堅牢な石造りの構造に改築され、17～18世紀にかけてはハプスブルク家とブルボン家の争いの影響を受け、さらに防御を固められました。フランスの軍事技術者ヴォーバンによって強化された要塞は、幾多の戦争や宗教的混乱を経験しながらも、街の歴史を刻んできました。

第一次世界大戦の激戦地

第一次世界大戦において、イーペルはドイツ軍と連合軍の激戦地となりました。1914年、ドイツ軍の侵攻により占領された後、連合軍の反撃で奪還されましたが、1915年には人類史上初めて大規模な毒ガス攻撃（塩素ガス）を受け、再びドイツ軍の手に渡りました。1917年にはマスタードガス（イペリット）も使用され、甚大な被害を受けました。同年、パッシェンデールを舞台とした第三次イーペルの戦いでは、両軍合わせて50万人以上の犠牲者を出しました。街は砲撃によって壊滅的な被害を受けました。

戦後の復興と平和都市

戦後、イーペル市は中心部を中心に可能な限り元の設計を忠実に再現して再建されました。衣料会館はフランドルフィールズ博物館となり、第一次世界大戦に関する展示が行われています。戦争で破壊された街は「平和都市」として生まれ変わり、日本の広島市と友好都市関係を結びました。両市は、戦争の悲劇を共有し、平和への願いを込めて強い絆で結ばれています。

文化とイベント

イーペルでは、3年ごとに開催される「カッテンストゥッツ」と呼ばれる猫の祭りが有名です。巨大な猫の人形がパレードに登場し、独特の雰囲気を醸し出しています。また、自動車競技のイープル・ラリーも開催され、世界中から多くの観客を集めています。

姉妹都市

イーペルは、イギリスのシッティングボーン、ドイツのジーゲン、フランスのサントメールと姉妹都市提携を結んでいます。これらの都市との交流を通して、平和と友好の輪を広げています。

イーペルは、中世の栄光と第一次世界大戦の傷跡を背負いながら、平和への願いを胸に未来へと歩みを進める歴史都市です。

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