ウィキペディアとCOVID-19パンデミック

COVID-19パンデミックは、ウィキペディアにとって試練の時であると同時に、その力と可能性を示す機会となりました。世界中で感染が拡大する中、ウィキペディアは多言語でリアルタイムな情報を提供し、パンデミックに関する様々な側面を網羅した詳細な記事を作成。既存の記事もパンデミックの影響を考慮して修正され、その包括性、信頼性、速報性がメディアから注目を集めました。

パンデミック下のウィキペディア

ウィキメディア財団の報告によると、2019年12月から2020年12月までの間に、全言語版のウィキペディアでCOVID-19関連の記事が6950件作成され、9万7088人の編集者によって98万3395回の編集が行われました。これらの記事は合計5億7919万316回閲覧され、パンデミック発生後の編集回数が大幅に増加しました。特に大規模な英語版ウィキペディアでは、新規参加者が増加し、パンデミック初期には過去3年間で最も活発な編集が行われました。

調査によると、2020年1月から5月までのCOVID-19パンデミックに関する記事は、信頼できる情報源と高品質な学術研究を参照しており、COVID-19関連文献の約2%がウィキペディアで参照されていました。ジャーナリストのノーム・コーエンは、パンデミック関連の記事に対する編集者の取り組みを評価し、「ウィキペディアも良心を育んだ」と述べています。

誤情報との戦い

ウィキペディアは、パンデミックに関する誤情報との戦いにも積極的に取り組みました。世界保健機関（WHO）と協力し、COVID-19に関するインフォグラフィックなどのフリーコンテント資料を提供。編集者は誤情報の除去に尽力し、信頼できる情報源となるよう努めました。

ワシントン大学情報学部教授のジェヴィン・ウェストは、ウィキペディアがCOVID-19を「全体的に見て、並外れてうまく」扱っていると評価し、BBCも2020年に何百人ものウィキペディア編集者によってパンデミックのあらゆる側面がカバーされたと報じました。

英語版ウィキペディアの動向

英語版ウィキペディアの記事「COVID-19 pandemic」は、作成から1年後に約8600万回の累計閲覧数を記録し、他の記事からの内部リンクは約3万2000件に及びました。2023年2月時点で、英語版ウィキペディアの最も閲覧されたページのランキングでは65位にランクインしています。

パンデミックの拡大に伴い、編集者は次々と追加される新情報や誤情報に迅速に対応。ウィキペディアの情報はデータの視覚化に利用され、ソーシャルメディアで共有されました。2020年3月19日までに、パンデミックの主記事には2100人以上の編集者が投稿しました。

ウィキプロジェクトと呼ばれる編集者のグループは、英語版ウィキペディアのパンデミック記事の管理、記事の変更の監視、フィードバックの提供、厳格な情報源の品質基準の強化、記事の翻訳作業を促進しました。しかし、記事の削除を巡る論争も発生し、ウィキペディアが記事の削除に対して金銭を受け取っているという誤解も生じました。

各言語版ウィキペディアの取り組み

ドイツ語版ウィキペディアでは、2020年1月からパンデミックに関する執筆が開始され、主記事とドイツでの感染拡大に関する記事は、2020年3月時点でそれぞれ1日あたり約15万回、約10万回閲覧されました。

インドの諸言語版ウィキペディアも、COVID-19に関する情報を提供。SWASTHA（Special Wikipedia Awareness Scheme for the Healthcare Affiliates）は、ジョンズ・ホプキンズ大学、インドの保健・家族福祉省および国家保健庁、世界保健機関と協力して取り組みました。オリヤー語版ウィキペディアは、「インターネット上で最も包括的なオリヤー語の医療コンテンツの情報源」となりました。

日本語版ウィキペディアでは、「アベノマスク」の削除依頼が論争に発展しましたが、最終的に削除しないことで合意しました。スペイン語版ウィキペディアのパンデミックの主記事は、2020年1月19日に作成され、4月中旬までに5000回以上編集され、500万回以上閲覧されました。

ウィキデータとウィキメディア財団

ウィキペディアの姉妹プロジェクトであるウィキデータは、COVID-19の研究とデータベース化に利用されています。ウィキメディア財団は、ロックダウンの間、職員のリモートワークへの移行を支援し、リモート教育用のフリー教材を公開しました。

ウィキメディアン・オブ・ザ・イヤー

ウィキメディア財団が毎年開催するウィキメディアン・オブ・ザ・イヤーの2020年と2021年の受賞者は、COVID-19関連のコンテンツへの貢献が評価されました。

ウィキペディアは、COVID-19パンデミックという未曽有の危機において、その情報提供能力とコミュニティの力を発揮しました。誤情報との戦いや記事の質の維持など、課題も多くありましたが、ウィキペディアは世界中の人々に信頼できる情報を提供し、パンデミックの理解と対策に貢献しました。

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