ウィッティントンと猫

ウィッティントンと猫：幸運を招く猫の物語

「ウィッティントンと猫」は、14世紀に3度ロンドン市長を務めたリチャード・ウィッティントン（1354年頃 - 1423年）にまつわるイギリスの有名な民話です。この物語は、貧しい孤児ディック・ウィッティントンが、猫の助けを借りて成功を収めるという、希望に満ちた立身出世の物語として語り継がれています。

あらすじ

物語は、身寄りのない貧しい少年ディック・ウィッティントンが、一攫千金を夢見てロンドンへ旅立つところから始まります。しかし、ロンドンでの生活は厳しく、彼は豪商フィッツウォーレンの家で皿洗いとして働くことになります。

ディックの唯一の友は、彼が大切に飼っている猫でした。ある日、フィッツウォーレンは貿易船を派遣することになり、ディックの猫も船に託されることになります。猫は外国でネズミ退治に大活躍し、非常に高値で売られました。

一方、ディックはつらい皿洗いの仕事に嫌気がさし、逃げ出すことを考えます。しかし、故郷へ向かう途中、彼はロンドンの鐘の音を聞き、「帰っておいで、ウィッティントン。あなたはいつかロンドン市長になる」というメッセージを受け取ります。この鐘の音に励まされたディックは、再びロンドンへ戻り、仕事を続ける決意をします。

やがて、猫が売れたお金でディックは大金持ちになり、フィッツウォーレンの娘アリスと結婚します。そして、鐘の音の予言通り、彼は3度もロンドン市長を務め、慈善事業にも尽力しました。

物語の変遷

ウィッティントンが猫によって巨万の富を得たという伝説は、17世紀頃に文学作品として確立しました。現存する最古のものは、リチャード・ジョンソンが1612年に書いたバラッドです。このバラッドには、鐘の音がディックに「帰ってこい、いずれロンドン市長になる」と語りかける場面が含まれています。

1656年頃には、セント・メアリー・ル・ボウ教会の鐘の音をバンヒルで聞いたとする散文版の大衆本が出版されました。その後、ホロウェイで鐘を聞いたという伝承が広まり、ハイゲイト・ヒルのウィッティントン・ストーンが、ディック少年が逃亡した場所として知られるようになりました。

18世紀初頭には、人形劇として上演され、後にパントマイムや児童劇としてクリスマスシーズンに演じられるようになります。ヴィクトリア時代には童話として仕立てられ、数多くの再話や絵本が出版されました。

モチーフと類話

主人公がネズミ駆除の猫を売って褒美を得るというモチーフは、世界各地に類似の説話が存在します。民話学では、このモチーフを「ウィッティントンの猫」として分類しています。また、話型としてはアールネ＝トンプソン（AT）1651「ウィッティントンの猫」に分類されます。

イタリアやペルシアなど、様々な国に猫が幸運をもたらす物語が存在し、古くから人々に愛されてきたことがわかります。

現代への影響

「ウィッティントンと猫」は、現代においてもパントマイム劇として人気があり、様々な形で翻案されています。また、ハイゲイト・ヒルにはウィッティントン・ストーンが建てられ、物語を象徴する場所となっています。

この物語は、困難な状況でも希望を捨てずに努力すれば、夢を実現できるというメッセージを伝えています。また、猫という身近な動物が幸運をもたらすという点で、多くの人々に親しまれ、語り継がれていくことでしょう。

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