ウィリアム・ウェッブ・エリス

ウィリアム・ウェッブ・エリス：ラグビー史上のレジェンドとその影

ウィリアム・ウェッブ・エリス(1806-1872)は、ラグビーフットボールの起源において中心的な人物として広く認識されています。1823年、イングランドのラグビー校でフットボールの試合中に、エリスがボールを抱えて相手ゴールに向かって走り出したという逸話が、ラグビーフットボール誕生の契機として語り継がれています。この伝説的な行為が、サッカーとは異なる、ボールを手で扱うラグビー独自のスタイルの始まりとされるのです。

しかし、この物語の真相は必ずしも明らかではありません。エリスが最初にボールを持って走ったという証言は、ラグビー校の卒業生である弁護士マシュー・ブロクサムによるもので、エリスとラグビー校で同時期を過ごした人物です。しかしブロクサム自身、この事件を直接目撃したわけではなく、他の人物からの聞き書きを基に、1880年にこの逸話を記したものです。決定的な物的証拠や複数の証言が存在するわけではないため、この物語の信憑性については議論の余地が残されています。

エリスがラグビー校でどのような生徒だったかについても、興味深い記述があります。記録によると、彼はクリケットでは優れた選手だったものの、フットボールではフェアプレーを欠くプレーをする傾向があったとされています。この逸話は、彼の性格や当時のラグビー校におけるフットボールの状況を考える上で重要な手がかりとなります。

エリス自身の人生もまた興味深いものです。ランカシャー州サルフォードに生まれ、父が戦死したのち、母と共にラグビー校のあるウォリックシャー州ラグビーへと移住しました。ラグビー校では1816年から1825年まで学び、卒業後はオックスフォード大学に進学、その後は牧師として活躍しました。クリミア戦争時にはイギリス軍への神の加護を祈る説教を行い、その肖像画は現在も残されています。南フランスで亡くなり、その墓は1959年に発見されました。

ラグビーフットボールの歴史において、「エリス神話」と呼ばれるこの物語は、その起源や発展を語る上で重要な役割を果たしています。ラグビーワールドカップの優勝トロフィーが「ウェブ・エリス・カップ」と名付けられていることからも、彼の名声がいかに広く浸透しているかが分かります。ラグビーというスポーツ、そしてその名称自体が、エリスとラグビー校に深く結びついています。

しかし、エリスの貢献を過大評価しないことも重要です。当時、各パブリックスクールは独自のフットボールルールを持っていました。エリスの行動が、ラグビーとサッカーの明確な分岐点になったわけではないのです。ラグビーとサッカーが明確に異なるスポーツとして確立したのは、エリスの時代から40年以上後のこと、フットボール協会が設立され、ルール統一が試みられた際に、ラグビー校の伝統を継承する側が、ボールを持って走るプレーや激しいタックルを認めなかったことが大きな要因でした。

今日、エリスがラグビーフットボールの創始者と断定するには不十分な証拠しかありません。しかし、彼をラグビーフットボールの歴史における象徴的な存在として捉え、その物語が持つ意味を理解することは、このスポーツの歴史を深く理解する上で必要不可欠でしょう。エリス物語は、スポーツの起源や発展を探る際、伝説と史実、そして解釈の多様性を考える良い例として、今後も議論を呼び続けるに違いありません。

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