ウィリアム・デュポン・ジュニア

ウィリアム・フランシス・デュポン・ジュニア：サラブレッド競馬と巨万の富の物語

ウィリアム・フランシス・デュポン・ジュニア（1896年～1965年）は、アメリカ合衆国で活躍した実業家、銀行家、そしてサラブレッド競馬の馬主として名を馳せました。名門デラウェア州デュポン家の出身である彼は、その裕福な出自と並外れた競馬への情熱によって、アメリカ競馬界に大きな影響を与えた人物の一人です。

幼少期とサラブレッドとの出会い

イギリスで生まれ、アメリカで育ったデュポン・ジュニアは、幼少期を16世紀築造のローズリーパークや、ジェームズ・マディソン大統領の邸宅であったモントピリアで過ごしました。姉のマリオンとともに、私立学校で教育を受け、障害競走や狩猟、馬術競技会などを通して、自然とサラブレッド競馬の世界に触れていきました。この経験が、彼の人生を大きく彩ることになるサラブレッドへの情熱の原点となりました。姉のマリオンもまた競馬に関わり、繁殖事業にも貢献したことで知られています。

華麗なる結婚とビジネス界での成功

1919年、デュポン・ジュニアは鉄道王の娘であるジャン・リセター・オースティンと結婚しました。この結婚はメディアで「世紀の結婚式」と称賛され、莫大な結婚祝いの贈り物として、600エーカー以上の土地が贈られました。その土地には、後に彼の父が結婚祝いに「リセッター・ホール」という壮大な邸宅を建設しました。

ビジネスの面では、1921年にデラウェア・トラスト・カンパニーの取締役会員に就任し、その後も生涯に渡り銀行家として活躍しました。1928年には父が亡くなり、ベルビューホールを相続、さらに同社の社長に就任しました。

リセッターホール牧場とベルビューホール

リセッターホール牧場は、1920～30年代当時、大西洋中部で最先端の競走馬育成施設でした。アメリカ初の屋内トラックをはじめ、広大な厩舎、屋内輪乗り場、トレーニングトラック、繁殖施設など、あらゆる設備が整えられていました。ベルビューホールの敷地にも同様の施設が建設され、大規模なサラブレッド事業を展開しました。

デュポン・ジュニアとジャンには4人の子供がいましたが、1941年に離婚。その後、テニスチャンピオンのマーガレット・オズボーンと再婚し、彼女のためにベルビューホールにテニスコートを建設するなど、その裕福さを示すエピソードが残っています。

フォックスキャッチャーファームと競走馬生産

1920年代から、デュポン・ジュニアは「フォックスキャッチャーファーム」という名称でサラブレッドの生産を始めました。ベルビューホールを拠点としながらも、メリーランド州にも大規模な施設を所有し、イギリスから優秀な種牡馬を輸入するなど、積極的に競走馬の改良に努めました。

名調教師を迎え、数々の名馬を輩出しました。フェアスター（1926年アメリカ最優秀2歳牝馬）、フェアリーチャント（1940年アメリカ最優秀3歳牝馬、1941年アメリカ最優秀古牝馬）、パルロ（1954年アメリカ最優秀3歳牝馬、1954年・1955年アメリカ最優秀古牝馬）など、数々の栄光を手にしました。

競馬場開発への貢献

デュポンの競馬への情熱は、競走馬の生産にとどまりませんでした。彼は23もの競馬場の建設にも関わり、その中にはデラウェアパーク競馬場も含まれています。競馬場開発のための法律制定にも尽力するなど、アメリカ競馬の発展に多大な貢献をしました。

遺産

1965年に死去したデュポン・ジュニア。相続人がいなかったベルビューホールは、デラウェア州によって購入され、現在は州立公園として一般公開されています。彼の功績は、デラウェアスポーツ博物館殿堂入りという形で後世に伝えられています。

ウィリアム・フランシス・デュポン・ジュニアは、巨万の富と名門の血統、そして並外れた競馬への情熱という三つの要素が奇跡的に融合した人物でした。彼の生涯は、アメリカ競馬史における輝かしい一ページとして、これからも語り継がれていくことでしょう。

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