ウィリアム・パトリック・ディーン

ウィリアム・パトリック・ディーン：オーストラリアの法曹界、そして総督としての軌跡

ウィリアム・パトリック・ディーン卿（Sir William Patrick Deane）は、1931年1月4日にビクトリア州メルボルンで生まれました。彼は法律家、裁判官としてその名を知られ、第22代オーストラリア総督という要職を歴任しました。

生い立ちと法曹への道

カトリック系の学校で教育を受けた後、シドニー大学で法律を専攻。卒業後は司法省に進み、その後弁護士となりました。一時、カトリック系の社会活動から政治家を志したこともありましたが、党内の対立に失望し、政治活動からは身を引きます。しかし、この活動中に社会問題や人種差別反対運動に関わった経験が、後のディーンに大きな影響を与えることになります。

ディーンは国際法を専門とし、シドニー大学では国際法とエクイティの講師を務めました。1966年には勅選弁護士となります。1977年にはニューサウスウェールズ州最高裁判所の判事に任命され、1982年からはオーストラリア高等裁判所の判事を務めました。高等裁判事在任中には、先住民の先住権原を認める歴史的なマボ判決に関わっています。

オーストラリア総督として

1995年、当時のポール・キーティング首相は、ディーンをビル・ヘイデンの後任として総督に指名。これを受け、女王エリザベス2世がディーンを総督に任命しました。高等裁判所判事を辞任後、1996年2月に総督に就任しました。

総督就任直後、キーティング率いるオーストラリア労働党は総選挙で敗北し、ジョン・ハワード率いる自由党・国民党の保守連合に政権が交代。ディーンは労働党寄りのリベラルな人物であり、多文化主義政策に否定的なハワードとは思想的に相容れない部分がありました。しかし、女王の代理人である総督という立場上、ハワードの政策を公然と批判することは避けました。その一方で、人種間の融和、特にアボリジニへの差別解消に向けて積極的に行動し、ハワード政権の右派的な姿勢を暗に批判しました。オーストラリアの学校における反差別教育プロジェクト「Racism. No way.」は、ディーンの主導によって開始されたものです。

2000年には、シドニーオリンピックとシドニーパラリンピックの開会を宣言するという大役も担いました。

2001年6月、任期満了に伴い総督を辞任。同年、総督在任中の人種間融和・差別撲滅への貢献が評価され、シドニー平和賞を受賞しました。

総督退任後

総督退任後は、法律家として社会運動団体（ホームレス支援、教育支援活動）の後援を行っています。総督辞任後は政治的な発言も積極的に行っており、多文化主義や人種間融和に否定的な動きに対しては、時の政権（特に保守政権）を批判し、オーストラリア国民に警鐘を鳴らすこともあります。

ウィリアム・パトリック・ディーンは、法曹界における卓越した業績に加え、総督として、そして社会活動家として、オーストラリア社会に大きな貢献を果たした人物として記憶されています。

もう一度検索