ウィリアム・ヘンリー・ハーヴィー

ウィリアム・ヘンリー・ハーヴィー

ウィリアム・ヘンリー・ハーヴィー（William Henry Harvey、1811年2月5日 - 1866年5月15日）は、19世紀に活躍したアイルランド出身の傑出した植物学者です。彼の名を特に知らしめているのは、藻類に関する深い研究と、それをまとめた画期的な著作群でした。

生涯の足跡

ハーヴィーは、リムリック近郊のサマヴィルに生まれました。父は裕福なクウェーカー教徒の商人であり、彼は地元で教育を受けた後、しばらくは家業に従事しました。しかし、幼い頃から自然、特に水辺に生える植物への強い関心を抱いており、15歳になる頃には、その情熱は藻類の研究へと向けられていました。

彼の人生の転機の一つは、1831年にキラーニー湖の周辺で、珍しいコケの新種である`Hookeria laetevirens`を発見したことでした。この発見がきっかけとなり、当時グラスゴー大学で植物学教授を務めていたウィリアム・ジャクソン・フッカー卿と知り合います。フッカーは後にキューガーデンの園長となる著名な植物学者であり、二人はこの出会いを通じて生涯にわたる固い友情を育むことになります。ハーヴィーはフッカーの主要な著作、例えば1833年刊行の『イギリスの植物』(`British Flora`)や、『ビーチー船長の航海の植物学』(`The Botany of Captain Beechy's Voyage`)の藻類に関する章の執筆を手伝うなど、初期から共同で学術的な活動を行いました。

1835年、ハーヴィーは兄ジョセフと共に南アフリカへ渡り、植民地管理の職に就きました。しかし、不幸にも兄は現地で亡くなってしまいます。ハーヴィーはその後も1842年まで南アフリカに留まり、この期間に膨大な量の植物標本を収集しました。これらの標本は、後に彼がドイツの植物学者オットー・ゾンダーと協力して執筆した記念碑的な著作『ケープ植物誌』(`Flora Capensis`)の基礎となります。残念ながら、この全6巻に及ぶ大著が完全に刊行されたのは、ハーヴィーの死後となりました。

南アフリカから帰国後、ハーヴィーはダブリンのトリニティ・カレッジで教鞭を執るようになり、最終的には植物学の教授に昇進しました。教育者としても優れた才能を発揮し、多くの学生に影響を与えました。

探検家としての顔も持ち合わせていたハーヴィーは、1854年から1856年にかけて、セイロン（現在のスリランカ）、オーストラリア、タスマニアといった遠隔地への大規模な調査旅行を敢行しました。これらの地で収集された貴重な植物標本は、その後の研究に不可欠なものとなりました。

彼の学術的な功績は国内外で高く評価され、1857年にはロンドン・リンネ協会の会員に、そして1858年には権威ある王立協会のフェローに選出されました。彼の偉業を称え、ゴマノハグサ科に属する植物の属名の一つに`Harveya`の名が献名されています。

主な著作

ハーヴィーは、その生涯を通じて数多くの重要な著作を刊行しました。中でも特筆すべきは、藻類に関する広範な研究をまとめたものです。彼の代表的な著作には以下のようなものがあります。

`Genera of South African Plants` (1838)
`Manual of British Algae` (1841)
`Phycologia Britannica` (全4巻, 1846-1851): イギリスの藻類に関する集大成。
`Nereis Australis` (1847): オーストラリアの藻類に関する研究。
`Sea-side Book` (1849): 海辺の自然を紹介する啓蒙書。好評を博し、版を重ねた。
`Nereis Boreali-Americana` (1851-1858): 北米の藻類に関する研究。
`Phycologica Australica` (1858-1863): オーストラリアの藻類図鑑。
`Thesaurus Capensis` (1859-1863)
`Index Generum Algarum` (1860): 藻類の属名索引。オットー・ゾンダーと共著。
`Flora Capsensis` (1859-1865): ケープ植物誌。オットー・ゾンダーと共著。

ウィリアム・ヘンリー・ハーヴィーは、藻類学という分野を大きく前進させた先駆者であり、世界各地の植物相解明にも多大な貢献を残しました。彼の収集した標本と著作は、現在も植物学研究において重要な資料となっています。

もう一度検索