ウィレム・ド・ジッター

ウィレム・ド・ジッター

ウィレム・ド・ジッター（Willem de Sitter、1872年5月6日 - 1934年11月20日）は、20世紀初頭に活躍したオランダ出身の数学者、物理学者、そして天文学者である。日本語では「デ・シッテル」と表記されることもある。

生涯

ド・ジッターは1872年5月6日、オランダ北部のフリースラント州スネークで生を受けた。故郷に近いフローニンゲン大学に進学し、数学を専攻した後、同大学の天文学研究所で研究生活を開始した。キャリアの初期段階として、1897年から1899年にかけては南アフリカの喜望峰王立天文台で研鑽を積んだ。帰国後、学術的なキャリアを積み重ね、1908年にはオランダ有数の学府であるライデン大学の天文学教授に就任。その後、1919年からはライデン天文台の台長も兼任し、亡くなる1934年までその職を務めた。彼は1934年11月20日にライデンでその生涯を閉じた。

功績

ド・ジッターの科学史における最大の貢献は、物理学的宇宙論の創成期における先駆的な研究にある。特に、アルベルト・アインシュタインの一般相対性理論を宇宙全体に応用する試みの中で、重要な役割を果たした。

彼は、一般相対性理論の基本的な場の方程式であるアインシュタイン方程式の厳密解の一つとして、「ド・ジッター空間」および「ド・ジッター宇宙」という概念を提唱した。ド・ジッター宇宙モデルは、物質（質量やエネルギー）が全く存在しない「空虚な宇宙」を想定しつつも、正の宇宙定数を持つ場合に成立する解である。このモデルは、時空が指数関数的に膨張するという特徴を持ち、後の宇宙論におけるインフレーション理論などを考察する上で示唆的な側面を持っていた。

1932年には、アインシュタインとの共同研究の成果として、宇宙の曲率と当時の観測データとの関連性について考察した論文を発表しており、これは物理学者と天文学者による宇宙論研究の古典的な例とされている。

また、ド・ジッターは観測天文学の分野でも重要な提案を行った。1913年には、速く運動する連星系を利用することで、光源の運動速度が光の速度に影響を与えるか否かを実験的に検証できることを示した。この「ド・ジッター効果」あるいは「ド・ジッターの連星実験」のアイデアは、光速の不変性という相対性理論の基本的な仮定を支持する強力な証拠の一つとなった。さらに、木星の衛星系の運動に関する精密な研究でも知られている。

受賞歴と栄誉

ド・ジッターはその卓越した業績に対し、数多くの栄誉が与えられた。主なものとして、1912年にはオランダ王立芸術科学アカデミーの会員に選出されている。また、天文学分野で権威ある賞を多数受賞しており、1929年のジェームズ・クレイグ・ワトソン・メダル、1931年のブルース・メダル、同じく1931年の王立天文学会ゴールドメダル、そして1934年のジュール・ジャンサン賞などが挙げられる。

名にちなむもの

彼の科学的貢献を称え、多くの概念や天体にその名が冠されている。

ド・ジッター宇宙、ド・ジッター空間、反ド・ジッター空間、ド・ジッター相対性、アインシュタイン＝ド・ジッター宇宙といった宇宙論や物理学の概念。
ド・ジッターの連星実験（ド・ジッター効果）や測地効果（ド・ジッター歳差）といった観測現象や理論効果。
ド・ジッター＝シュヴァルツシルト計量。
月のクレーター「ド・ジッター」。
* 小惑星「(1686) ド・ジッター」。

家族

ド・ジッターの息子たちもまた、学者として道を歩んだ。息子のウルボ・ド・ジッター（1902年 - 1980年）は著名な地質学者となり、その息子（ウィレムの孫）である同名のウルボ・ド・ジッター（1930年 - 2010年）は社会学者として活躍した。別の息子であるアーナウト・ド・ジッター（1905年 - 1944年）は天文学者であり、インドネシア（当時はオランダ領東インド）のボスカ天文台長を務め、球状星団M4の研究で知られている。

関連項目

アメリカの怪奇小説家H.P.ラヴクラフトの小説『魔女の家の夢』は、ド・ジッターの講演に触発されて執筆されたと言われており、作中の主人公はド・ジッターをモデルとしている。

ウィレム・ド・ジッターは、相対性理論と宇宙論が結びつき始めた時代の主要人物であり、その概念的な提唱や観測への提案は、その後の宇宙研究の発展に lasting effect を与えたと言えるだろう。

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