ウィー・トーマス

『ウィー・トーマス』の概要

『ウィー・トーマス』（原題: The Lieutenant of Inishmore）は、アイルランド系イギリス人劇作家マーティン・マクドナーによる戯曲です。この作品は、アイルランドのアラン諸島に位置するイニシュモア島を舞台にしたブラックコメディとして知られています。初演は2001年、ストラトフォード＝アポン＝エイヴォンにてロイヤル・シェイクスピア・カンパニーによって行われました。作品のタイトルは、劇中に登場する猫の名前から来ており、アラン諸島を舞台にしたマクドナーの三部作の一つとして位置づけられています。

あらすじ

物語の背景は1993年の北アイルランド。和平プロセスが停滞している中、登場人物の一人であるパドレイクは、過激な分派であるアイルランド民族解放軍（INLA）の中尉です。彼は、その異常な性格ゆえにアイルランド共和国軍（IRA）にすら受け入れられず、さらに愛猫ウィー・トーマスと深い絆を結んでいます。

ある日、パドレイクは愛猫が病気であるという知らせを受け、急遽故郷に戻ることになります。しかし、その実情は全く異なったものでした。ウィー・トーマスは実は頭を打ち割られて死んでおり、その死を隠蔽するために、父親のドニーと近所の少年デイヴィが猫の体を隠そうとします。彼らはデイヴィの妹であるマレードが飼っている黒猫サー・ロジャーを盗み、この猫をウィー・トーマスだと偽装しようとするのです。

パドレイクが真実を知ると、彼の激怒は爆発し、サー・ロジャーを殺害します。さらに、ドニーとデイヴィにも手をかけようとするのですが、ここにINLAのクリスティ、ブレンダン、ジョーイが登場します。彼らはパドレイクを抹殺しようと企てていたのです。混乱の中、射撃の腕前を誇るマレードは、彼らの目を射抜いてパドレイクの救出に成功します。

ストーリーが急展開する中、クリスティは自分たちがウィー・トーマスを殺したことを告白し、パドレイクは彼をバラバラにすることを決意します。最終的に、パドレイクとマレードは恋に落ちますが、マレードはパドレイクがサー・ロジャーを殺したことを知り、彼に銃を向けます。そして、物語のクライマックスでは、実際のウィー・トーマスが現れ、最初に死んだのは彼ではなかったことが明らかになります。

主な登場人物

1. パドレイク: アイルランド民族解放軍の中尉で、狂気じみた性格を持つ青年。
2. デイヴィ: 近所の少年で、パドレイクの愛猫ウィー・トーマスの死を隠蔽しようとする。
3. ドニー: パドレイクの父親で、真実を隠そうと苦悩する中年男性。
4. マレード: デイヴィの妹で、パドレイクに恋心を抱く若い少女。
5. クリスティ、ブレンダン、ジョーイ: INLAのメンバーで、パドレイクを暗殺しようとする。

上演および受賞歴

『ウィー・トーマス』は、初演以来、多くの劇場で上演されてきました。特にロイヤル・シェイクスピア・カンパニーによる初演は高く評価され、その後もロンドンやアメリカ、オーストラリア、さらに日本に至るまで、多数の舞台で再演されています。作品は2003年度のローレンス・オリヴィエ賞を受賞するなど、批評家からも高い評価を得ています。

この作品の魅力は、アイルランドの政治的背景を大胆に描きつつ、笑いの要素も盛り込まれている点です。マクドナーの一貫したテーマである暴力とその無意味さ、そして人間関係の複雑さを見事に表現しています。

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