ウイロイド

ウイロイド

ウイロイドは、わずか200から400程度の塩基数から構成される、非常に短い環状の一本鎖RNA分子です。これが、維管束植物に対して感染力を持ち、様々な病害の原因となる病原体です。

構造と特性

ウイロイドの最も特徴的な点は、遺伝物質がRNAのみであり、ウイルスに見られるようなタンパク質の被覆（カプシド）を持たないことです。また、自身のゲノム情報に基づいてタンパク質を作り出す機能も持っていません。分子内では塩基対を形成し、多くのウイロイドは生体内では棒状の構造をとると考えられています。

複製メカニズム

ウイロイドの増殖は、ローリングサークルと呼ばれる独特な様式で行われます。この複製過程は、宿主細胞の核内、あるいは葉緑体内で進行します。複製によって生成されたRNAは、個々の単位が鎖状に連なった状態（タンデムリピート）となりますが、これを適切な長さに切断する過程が必要となります。この切断反応は、一部のウイロイドではリボザイム（触媒活性を持つRNA）によって触媒されることが知られています。

発見とその起源に関する考察

世界で最初にウイロイドが発見されたのは1971年のことで、アメリカの植物病理学者セオドール・ディーナーによって記述されました。彼が発見した「ジャガイモやせいもウイロイド（Potato spindle tuber viroid）」は、ジャガイモに紡錘状の奇形を引き起こす病気の原因物質として特定されました。

ウイロイドの極めてシンプルな構造とRNAによる自己複製能力は、生命の進化の初期段階、特に「RNAワールド」と呼ばれる仮説において、RNAが遺伝情報と触媒機能の両方を担っていた時代の遺物、「生きた化石」ではないかと考えられています（Symons 1997; Pelchat et al. 2003などの研究で議論されています）。あるいは、より単純に、自己複製能力を獲得したRNA断片が起源であるとする説も存在します。ウイロイドの研究は、初期生命の姿を理解する上で重要な示唆を与えています。

命名法と分類

ウイロイドは、その特殊な性質を反映した命名規則に従います。一般的には、「感染する植物名」に「代表的な病徴の種類」、そして「ウイロイド」という単語を組み合わせた英語名が用いられます。略称としては、最初の二つの単語の頭文字に「Vd」を付けて表記されます。例えば、ジャガイモやせいもウイロイド（Potato spindle tuber viroid）の略称は「PSTVd」となります。国際的に承認された種名はイタリック体で表記されます。

ウイロイドの分類体系における科や属の名前は、その科や属に属する代表的なウイロイドの名称の一部から取られています。例えば、ジャガイモやせいもウイロイドが属するポスピウイロイド科（Pospiviroidae）およびポスピウイロイド属（Pospiviroid）は、その名前に由来しています。

2018年時点で、ウイロイドはアブサンウイロイド科（Avsunviroidae）とポスピウイロイド科（Pospiviroidae）の二つの科に大別され、複数の属と種が分類されています。代表的な属としては、アブサンウイロイド属（Avsunviroid）、ペラモウイロイド属（Pelamoviroid）、アプスカウイロイド属（Apscaviroid）、ポスピウイロイド属（Pospiviroid）などがあり、それぞれにアボカドサンブロッチウイロイド、モモ潜在モザイクウイロイド、リンゴくぼみ果ウイロイド、ジャガイモやせいもウイロイドといった様々な種が含まれます。分類体系は研究の進展に伴い更新されることがあります。

植物への影響

ウイロイドに感染した植物は、生育の遅延（矮化）をはじめ、葉の変形や変色、茎や果実の異常など、様々な病害を引き起こします。これらの病徴はウイロイドの種類や感染した植物によって異なりますが、農業上重要な作物の収量や品質に大きな被害を与えることがあります。

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