ウイングス・グレイテスト・ヒッツ

『ウイングス・グレイテスト・ヒッツ』（英語タイトルは "Wings Greatest"）は、1978年にウイングスが発表したコンピレーションアルバムです。この作品は、ポール・マッカートニーがビートルズ解散後に結成したバンド、ウイングスにとって初のベストアルバムであり、グループが活動を終えるまでに公式にリリースされた唯一の同種作品として知られています。ビートルズ後のマッカートニーの音楽キャリアを初めて公式に総括する作品としても、特筆すべき存在となりました。

本作には、ウイングスのキャリアを代表する選りすぐりの12曲が収められています。具体的には、1971年にポール・マッカートニー名義で発表された最初のシングル「アナザー・デイ」から、1978年にリリースされたアルバム『ロンドン・タウン』までの期間に発表された楽曲の中から選ばれています。これら12曲は、当時のウイングスのヒットチャートを賑わせた代表的なナンバーであり、バンドの多様な音楽性を概観できる構成となっています。

実は、このベストアルバムの制作構想は、実際に作品がリリースされる数年前、1974年頃から存在していました。当初の計画では、『Hot Hitz & Cold Kutz』という仮題のもと、単なるヒット曲集にとどまらず、未発表音源も収録した、よりファン垂涎の2枚組アルバムとして企画されていたのです。しかし、当時の所属レコード会社であったEMIおよびアメリカのキャピトル・レコードとの調整の結果、最終的には既存曲の中から厳選された12曲を収めた1枚の作品としてまとめられることになりました。

この、ベストアルバムの収録内容や形態を巡る制作過程での経緯が原因の一つになったとも言われていますが、本作のリリース後、ウイングスはアメリカにおけるレコードの販売元を、長年にわたり協働してきたキャピトル・レコードから、CBS傘下のコロムビア・レコードへと移籍することを発表します。これは当時の音楽業界で大きな注目を集めた出来事でした。

本作がリリースされた1978年当時、収録曲12曲のうち、実に5曲が他のウイングスのオリジナルアルバムには収録されていませんでした。これには、「アナザー・デイ」をはじめ、ジェームズ・ボンド映画の主題歌として世界的に大ヒットした「007/死ぬのは奴らだ」、勢いのあるロックナンバー「ジュニアズ・ファーム」、「ハイ・ハイ・ハイ」、そしてポール・マッカートニーの故郷スコットランドへの想いを歌い、イギリス本国で空前のヒットを記録した「夢の旅人（Mull Of Kintyre）」などが含まれます。そのため、これらの代表的なシングルヒットをまとめて聞ける唯一のアルバムとして、本作は当時のファンにとって非常に価値の高い作品でした。

しかし、時代の変化と共に、ウイングスのオリジナルアルバムが次々とCD化され、その際にアルバム未収録だったシングル曲がボーナス・トラックとして追加収録されるのが一般的になります。さらに、ウイングスのキャリア全体を網羅したより包括的なコンピレーションアルバムも多数登場したことで、皮肉にも本作『ウイングス・グレイテスト・ヒッツ』の独自性や存在意義は次第に薄れていきました。その結果、1995年に一度CDとして再リリースされたものの、その後は長らくカタログから姿を消し、いわゆる「廃盤」の状態が続いてしまいます。この状況は、2018年に最新のリマスター音源を用いた豪華な形態での再リリースが行われるまで、およそ20年間も続くことになりました。

このように、『ウイングス・グレイテスト・ヒッツ』は、単なるウイングスの入門編としてのヒット曲集というだけでなく、バンドの初期から中期にかけての代表曲を一望できる作品であり、また、その制作経緯や当時のレコード会社との関係性といった、ウイングスの歴史における興味深い一面を映し出すアルバムと言えるでしょう。ビートルズ後のポール・マッカートニーの音楽活動を理解する上で、今なお重要な意味を持つコンピレーションアルバムの一つです。

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