ウェザー・リポート (1982年のアルバム)

『ウェザー・リポート』（Weather Report '81）

エレクトリック・ジャズの巨匠、ウェザー・リポートは1982年に、彼らにとって通算10作目となるスタジオ・アルバムを発表した。バンド名を冠した本作のタイトルは、実に1971年のデビュー作以来二度目であり、そのためにリリース当時は購入者や販売店の間で少なからぬ混乱を生んだ。しかし、単なるタイトルの繰り返しに留まらない本作は、バンドの歴史において重要な節目を刻む作品として、現在も高く評価されている。

特筆すべき編成

このアルバムが特に注目される点の一つは、ベーシストのジャコ・パストリアスとドラマーのピーター・アースキンという、グループの歴史上でも最も評価の高いリズム・セクションが揃った最後の録音であることだ。多くのファンは、彼らが在籍した時期をウェザー・リポートの最も輝かしい時代の一つと見なしており、彼らの参加がバンドのサウンドに圧倒的な深みと推進力を与えていたことを再確認できる。彼らの創造性溢れるインタープレイは、本作でも存分に発揮されている。

アルバムの核「N.Y.C.」

本作の中核を成すのは、3部構成の組曲「N.Y.C.」である。この楽曲は、各パートが鮮やかな個性を持ちながらも、見事な構成力によって繋がれ、一つの壮大な物語のように展開していく。

第1部：「41stパラレル」

組曲の幕開けを飾る「41stパラレル」では、ピーター・アースキンのドラムが主役となる。彼の軽やかでありながらも力強く、独特の弾むようなグルーヴは、他のドラマーには真似のできない唯一無二のものであり、楽曲に活気あふれる推進力を与えている。

第2部：「ザ・ダンス」

続く「ザ・ダンス」は、ジョー・ザヴィヌルが操るシンセサイザーによる、重厚かつ色彩豊かなオーケストレーションで始まる。複雑に構築されたサウンドは非常に密度の高い響きを持つ一方で、楽曲にはジャズの伝統に深く根ざした、心地よいスウィング感が流れている。

第3部：「クレイジー・アバウト・ジャズ」

組曲の最終パート「クレイジー・アバウト・ジャズ」は、そのタイトルが示す通り、ジャズに対する情熱と狂気にも似たエネルギーが爆発するような展開を見せる。予測不能なインプロヴィゼーションと各プレイヤーの熱演が織りなすサウンドは、聴く者を圧倒し、組曲全体を見事に締めくくる終結部となっている。

参加ミュージシャン

本作のサウンドを創り上げたメンバーは以下の通り。

ジョー・ザヴィヌル：キーボード、ピアノ、シンセサイザー、クレイ・ドラム、ドラム・コンピューター、パーカッション、ボーカル
ウェイン・ショーター：テナーサックス、ソプラノサックス
ジャコ・パストリアス：ベース、パーカッション、ボーカル
ピーター・アースキン：ドラム
* ロバート・トーマス・ジュニア：パーカッション

彼ら稀代のプレイヤーたちが一堂に会し、それぞれの才能をぶつけ合うことで、この時代を象徴する革新的なエレクトリック・ジャズ作品が誕生したのである。

『ウェザー・リポート'81』は、タイトルによる混乱とは裏腹に、バンドがそのクリエイティビティを最大限に発揮していた時期の充実ぶりを示す作品であり、特にジャコ・パストリアスとピーター・アースキンによる強力なリズム隊の最後の記録として、エレクトリック・ジャズ史において欠かせない重要作となっている。彼らの革新的なアプローチと演奏は、今なお多くのミュージシャンに影響を与え続けている。

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