ウェスタへの供儀

ウェスタへの供儀

『ウェスタへの供儀』は、スペインの画家フランシスコ・デ・ゴヤが1771年に制作した油彩画で、ローマ神話の火と竈の女神ウェスタに捧げる儀式をテーマとしています。この作品は、ゴヤがイタリア滞在中に制作した初期の作品群に含まれ、特に『パンへの供儀』に対する対作品と見なされることが多いです。その美しさと力量から、現在はサラゴサのフェリックス・パラシオス・レモンド・コレクションに収蔵されています。

主題

本作の主題は、古代ローマにおけるウェスタの巫女たちの役割に焦点を当てています。ウェスタの巫女は、ウェスタの処女と呼ばれ、フォロ・ロマーノにて燃える神聖な火を守る任務を担っていました。当初は4人でしたが、次第にその数は増え、最終的には7人の巫女によって構成されました。彼女たちは、選ばれると30年間の間、貞節を守ることが義務づけられ、その後に結婚することができるという特別な立場にありました。

制作背景

1770年、ゴヤはイタリアに渡り、そこで技術を磨きます。翌1771年にはパルマ美術アカデミーのコンクールに出品するために『初めてアルプスからイタリアを眺める勝利したハンニバル』を制作しました。まだ無名で、それに加えて当時は自身のスタイルを模索中の彼は、自費で滞在費を賄い、絵画制作に取り組んでいました。この時期、彼は神話をテーマとする小品をいくつも手掛けており、顧客のニーズに応じて制作した作品の一つが『ウェスタへの供儀』です。

作品分析

『ウェスタへの供儀』では、祭壇で火の儀式を執り行う老神官が描かれ、その周囲にはウェスタの処女たちがはりついています。画面左側にいる白い衣をまとった少女が、入信の儀式を受けている様子が描かれています。彼女は、長い30年間の貞節を誓います。背景には、古代ローマの象徴的なピラミッドが立っており、作品にさらなる深みを与えています。ゴヤの署名は祭壇の銘板に「ゴヤ / 1771」と記されています。

作品の構図は古典的でありながら、カラフルなロココ調の色使いが印象的です。この絵は、当時ローマで広がっていた様々な芸術的スタイルを融合させたものであり、それにはフランスからの留学生たちの影響が大きかったといわれています。また、著名なイタリアの画家たち（ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロやドメニコ・コルヴィなど）からも受けた影響があると考えられています。

作品の評価

『ウェスタへの供儀』や『パンへの供儀』の帰属については、当初から議論があったものの、ほとんどの研究者はゴヤの作品と認めています。彼の作品の署名スタイルが独特であり、本作の署名もそれにかなり近いからです。ホセ・ミリクアが述べているように、この署名法はゴヤの作品に見られる特徴的な趣向と一致しています。

来歴

この作品の初期の所有歴は不詳ですが、1913年にはパリでユージン・クラマーのコレクションの一部としてオークションに出品され、モーリス・ボワイユ・ラフォンによって購入されました。その後、1953年にスイスの美術収集家によって購入され、ホセ・グディオル・リカールのコレクションに加わります。最終的に、その相続人から現在の所有者であるフェリックス・パラシオス・レモンドに引き継がれました。

このようにゴヤの『ウェスタへの供儀』は、彼の初期の画業と古代ローマの文化、神話の融合が見事に描かれた作品として、今なお多くの人々に愛され続けています。

もう一度検索