ウェリントン公爵騎馬像 (旧王立取引所前)

ウェリントン公爵騎馬像：ロンドンの象徴と歴史を刻む銅像

ロンドン金融街、旧王立取引所前にそびえ立つウェリントン公爵騎馬像は、単なる記念像を超えた存在感を放っています。この威風堂々とした銅像は、イギリスを代表する軍人であり政治家でもあった初代ウェリントン公爵、アーサー・ウェルズリーを称え、1844年に除幕されました。多くの軍服姿の銅像とは異なり、平服にマントを羽織った姿は、彼の政治家としての功績を強調していると言えるでしょう。台座には「Wellington」の文字と除幕日「Erected June 18 1844」が刻まれ、歴史の重みを感じさせます。さらに、台座の基礎部分には像建立の経緯を記した金属の銘板が設置され、詳細な情報を知る手がかりとなっています。イギリス指定建造物第二級に指定されており、その歴史的価値の高さがうかがえます。

ロンドン橋架け替えとキング・ウィリアム・ストリート建設：像建立の背景

この像の建立には、19世紀初頭のロンドン市における大規模な都市開発が深く関わっています。18世紀末、600年近く使用されたロンドン橋は老朽化が進み、増加する交通量に対応できなくなっていました。新橋の建設は、紆余曲折を経て1824年に着手され、それに伴い新橋と繋がる道路整備の必要性が浮上しました。この道路整備には石炭税が充てられる計画でしたが、炭鉱を所有する貴族からの反発がありました。しかし、ウェルズリー公爵は道路整備の必要性を強く認識し、法案成立に尽力しました。そして、1835年、新しい道路が完成し、「キング・ウィリアム・ストリート」と命名されました。

像建立の提案と制作者選定：著名な彫刻家たちの競演

1836年、ロンドン市長ウィリアム・テイラー・コープランドは、キング・ウィリアム・ストリート建設におけるウェルズリー公爵の貢献に感謝し、銅像の建立を提案しました。像の制作には、リチャード・ウェストマコット、ジョン・エドワード・カルー、トーマス・キャンベル、エドワード・ホッジス・ベイリーなど、当時著名な彫刻家たちが候補に挙がりました。特に、マシュー・コーツ・ワイアットとフランシス・レガット・チャントリーの二名が有力候補として競い合いました。ワイアットは以前、ジョージ3世騎馬像を制作した実績があり、議会は両候補を支持する意見が真っ二つに割れました。最終的に、チャントリーが制作することになり、ワイアットは後に別の場所にウェルズリー公爵の像を制作することとなりました。

制作過程と除幕式：予想外の出来事と歴史的な日

チャントリーによる像の制作は順調に進み、1841年には自身の作品に自信を示していました。しかし、同年11月、チャントリーは心臓発作で急逝するという予期せぬ事態が発生します。その後、チャントリーの工房で助手として働いていたヘンリー・ウィークスが像の完成を引き継ぎました。1843年にはほぼ完成の形になっていましたが、設置予定地の王立取引所が1838年の火災で被災しており、再建工事が完了するまで設置は延期されました。

そして、1844年6月18日、ウェリントン公爵騎馬像の除幕式が執り行われました。この日付は、ウェルズリー公爵がワーテルローの戦いでナポレオンに勝利した日と同じであり、特別な意味を持っています。除幕式には、公爵自身はもちろんのこと、ロンドンを訪問していたザクセン王フリードリヒ・アウグスト2世も出席するなど、盛大なイベントとなりました。

ウェリントン公爵騎馬像：現代へのレガシー

ウェリントン公爵騎馬像は、単なる人物像ではなく、ロンドンの歴史、都市開発、そして偉大な人物への敬意が凝縮された存在です。その歴史的背景、制作過程、そして完成に至るまでのドラマは、見る者の心を捉え、ロンドンという街の息遣いを肌で感じさせてくれます。今日、人々はウェリントン公爵騎馬像を、ロンドンの象徴として、そして歴史の証人として、敬意を込めて見つめていることでしょう。

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