ウォータームーン

ウォータームーン：異星人と人間の触れ合いと、波乱の撮影秘話

1989年、東映系列で公開された映画『ウォータームーン』は、異色のSFヒューマンドラマとして知られています。歌手としても活躍する長渕剛の主演映画第2弾であり、工藤栄一監督がメガホンをとりました。本作は、テレビドラマ『とんぼ』と、その映画化作品『オルゴール』の大ヒットを受け、製作が決定した注目作でした。

ストーリー：都会をさまよう異星人修行僧

1956年、長野県に謎の光が降り立ち、政府は隕石の落下と発表しました。それから33年後、山寺で修行する僧侶、竜雲に異変が起こります。人間社会との摩擦から山を下りた竜雲は、東京の街で様々な人間と出会い、時に助けられ、時に傷つきながら、人間らしさ、心の温かさを探求していきます。

しかし、竜雲は実は墜落したUFOから回収された異星人であり、定期的な血液交換が必要な体でした。そのため、政府の秘密機関から厳しく監視されている身の上です。国家公安部による追跡を逃れながら、竜雲は盲目の旅館の女中、鹿野子と出会い、惹かれ合います。二人は逃亡を図りますが、血液交換のタイムリミットが迫り、竜雲は力尽きてしまいます。捕らえられた竜雲は、再び鹿野子を探し、脱出を試みます。

キャスト：豪華俳優陣が集結

長渕剛演じる竜雲を中心に、松坂慶子、小林稔侍、清水綋治、誠直也、菅田俊など、実力派俳優が脇を固めます。個性豊かなキャラクターたちが、竜雲の運命に深く関わっていきます。

波乱の撮影：長渕剛の強いこだわり

本作の撮影は、順風満帆とは程遠いものでした。長渕剛は映画に強いこだわりを持ち、撮影現場で脚本や演出に多くの変更を加えました。これは、スタッフとの軋轢を生み、監督の工藤栄一は途中で降板することになります。

長渕は自らロケ地を選定し、撮影にも深く関与しました。瀬戸内海の犬島での撮影を皮切りに、奈良の弥山での過酷なロケも敢行されました。弥山での撮影は、標高1895メートルの山頂で行われ、機材搬入や水運びなど、困難な状況の中での撮影となりました。

さらに、俳優の松田優作の急逝という悲劇的な出来事にも見舞われます。スタッフの多くが松田優作監督作品に関わっていたことから、撮影は一時中断され、現場の雰囲気は一変しました。

長渕は、撮影中もスタッフと距離を置き、独自の演出を貫きました。松坂慶子との間でも確執が生まれ、降板の危機もあったと言われています。

これらの困難を乗り越え、長渕自身も編集に深く関与し、作品は奇跡的に公開に間に合いました。

作品の評価：賛否両論

『ウォータームーン』は、商業的には成功とは言えず、批評家の評価も厳しいものでした。意味不明なストーリー展開や、長渕剛の自己顕示的な演出に否定的な意見が多くみられます。しかし、その一方で、長渕剛の強い個性と情熱が凝縮された異色の作品として、独自の評価を得ているのも事実です。

まとめ

『ウォータームーン』は、異星人の逃避行と人間との交流を描くヒューマンドラマです。しかし、その背景には、撮影現場での数々のトラブル、長渕剛の強いこだわり、そして俳優たちの葛藤が潜んでいます。波乱万丈の制作過程も含めて、本作は、日本の映画史に独特な一頁を刻んだ作品と言えるでしょう。

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