ウォートン男爵

ウォートン男爵の歴史：栄光と没落、そして継承

イングランド貴族の爵位、ウォートン男爵位。その歴史は1545年、トマス・ウォートンが初代男爵に叙せられたことに始まります。ソルウェイ・モスの戦いで活躍したトマスは、イングランド陸軍軍人として名を馳せ、王室からの信頼を得ていました。しかし、ウォートン男爵位の創設経緯は、勅許状によるものと考えられており、議会招集令状による爵位という貴族院の決定とは異なった解釈も存在します。

4代当主フィリップ・ウォートンは、熱心なカルヴァン派プロテスタントとして知られていました。ピューリタン革命においては議会派として戦い、その強い信念を貫きました。その息子、5代当主トマスは、ホイッグ党の政治家として活躍。ジェイムズ2世のカトリック政策を批判し、名誉革命ではオラニエ公ウィレム（後のウィリアム3世）を支持しました。さらに、ホイッグ党内の有力グループ「ジャントー」の指導者として、政治の中枢に深く関わりました。爵位の上昇も著しく、伯爵、侯爵と次々に叙位され、権勢を誇りました。

その息子、2代ウォートン侯フィリップは、さらに公爵位にまで昇進しました。しかし、彼はジャコバイトとしてウォルポール政権に反抗的な姿勢をとり、スペインへ亡命。スペイン王フェリペ5世の要請でジブラルタル包囲戦に参加するなど、反政府活動を行いました。この行為がイギリス国内で大きな問題となり、1729年には大逆罪で有罪判決を受け、全ての爵位を剥奪されてしまいます。

ウォートン家の爵位は一度は断絶したかに見えましたが、1世紀後の1845年、女王座部裁判所の判決により、フィリップ公爵の爵位剥奪は取り消されました。しかし、公爵位などの高位爵位は継承者がなく消滅。ウォートン男爵位だけは、女系継承が認められたため、存続することとなりました。ところが、男系後継者が絶えたため、複数の女性の間で爵位の継承が争われ、保持者不在（abeyance）の状態が長く続きました。

その後、複雑な法廷闘争と系譜調査を経て、1916年に保持者不在状態が解消。4代男爵の娘の子孫であるケメイーズ＝タイント家がウォートン男爵位を継承しました。しかし、9代当主には子供がなかったため、姉が10代女男爵位を継承。さらに、彼女の死後、娘たちの間で再び保持者不在となりましたが、1990年に解消され、ロバートソン家へと爵位は受け継がれました。

現在、12代当主であるマイルズ・ロバートソンがウォートン男爵位を継承し、その家系は続いています。ウォートン男爵の歴史は、イングランドの歴史、政治、そして複雑な爵位継承制度を反映した、ドラマチックな物語として、今もなお語り継がれています。 初代から現代までのウォートン男爵の一覧は、その栄光と苦難に満ちた歴史を改めて示しています。 女系継承を認められたこと、そしてその過程で何度も保持者不在の状態になったことは、ウォートン男爵位がいかに特異な存在であったかを物語っています。

主な歴代ウォートン男爵

初代ウォートン男爵トマス・ウォートン（1495頃–1568）
4代ウォートン男爵フィリップ・ウォートン（1613–1696）
5代ウォートン男爵トマス・ウォートン（1648–1715）
2代ウォートン侯フィリップ・ウォートン（1698–1731）
7代ウォートン女男爵ジェーン・ウォートン（1706–1761）
8代ウォートン男爵チャールズ・セオドア・ホルズウェル・ケメイーズ＝タイント（1876–1934）
* 12代ウォートン男爵マイルズ・クリストファー・デイヴィッド・ロバートソン（1964-）

ウォートン男爵位は、その複雑な継承の歴史を通して、イングランド貴族社会の変遷と、爵位制度の特質を鮮やかに示す、貴重な歴史的遺産と言えるでしょう。 現代に至るまで続くその系譜は、歴史の重みと、不屈の精神を物語っています。

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