ウクライナの映画

ウクライナ映画：歴史、現状、そして未来

ウクライナ映画は、1907年の最初の長編映画『迷宮のコチュベイ』以来、独自の道を歩んできました。ソ連時代には、国策映画やプロパガンダ作品が主流でしたが、ジガ・ヴェルトフやアレクサンドル・ドヴジェンコといった巨匠の登場により、ソビエト映画のモンタージュ理論を取り入れながら、ウクライナ独自の表現が模索されました。ドヴジェンコの『大地』などは、国際的にも高く評価されています。

ソ連時代から独立後へ

第二次世界大戦後は社会主義リアリズムが支配的でしたが、1960年代にセルゲイ・パラジャーノフが登場し、『火の馬』などの詩的で内省的な作品が世界に衝撃を与えました。パラジャーノフ以降、ユーリー・イリエンコ、イヴァン・ムィコラチュク、キラ・ムラートワといった監督たちが独自の表現を追求し、ウクライナ映画の芸術性を高めました。

1991年の独立後はハリウッド映画の流入により商業化が進み、国内映画製作は一時的に停滞しました。しかし、2009年から2012年にかけては年間10～15本の作品が制作されるなど、産業としては安定した状況が続きました。

2014年のクリミア併合とロシアによる東部紛争は、ウクライナ映画界に大きな打撃を与えました。国家予算の削減により映画制作は激減しましたが、2017年の「新映画法」成立や国の支援増加により、2022年のロシア侵攻前には回復の兆しが見られました。

国際的な評価と新たな潮流

ウクライナ映画は国際的に高い評価を得ており、特にセルゲイ・ロズニツァ監督の作品は数々の国際映画賞を受賞しています。しかし、彼の作品『ドンバス』はロシアで上映禁止となり、現在彼は事実上の亡命生活を送っています。

2024年には、『実録マリウポリの20日間』がアカデミー賞長篇ドキュメンタリー賞を受賞、ウクライナ映画初の快挙となりました。これは、戦争下のウクライナの現実を世界に伝える上で大きな役割を果たしています。また、2014年の『ザ・トライブ』も欧米で高く評価され、ウクライナ映画への国際的な関心の高まりに繋がりました。

映画産業の現状と課題

ウクライナ映画の制作は、文化省と映画庁が統括する国家事業です。ウクライナ撮影監督協会が予算を管理し、年間数本の映画が制作されています。2019年には年間1700万ドルの予算が投じられていました。

ウクライナでは、映画のウクライナ語吹き替えまたは字幕付けを義務付ける法律が制定されており、Netflixなどもウクライナ語吹き替え作品を配信するなど、言語政策も映画産業に影響を与えています。ゼレンスキー大統領もかつて吹き替え声優として参加していたことは有名です。

映画スタジオ、配給、映画祭

ウクライナには、ドヴジェンコ・フィルム・スタジオ、キエフフィルム、オデッサ映画スタジオなど、多くの映画スタジオが存在します。配給は、B＆H Film Distribution Company、ウクライナ映画配給会社、VLG.FILM、キノマニアなどが主要な役割を担っています。

オデッサ国際映画祭やモロディスト・キエフ国際映画祭など、多くの映画祭が開催されており、ウクライナ映画の振興に貢献しています。Golden Dzyga賞など、独自の映画賞も存在します。

今後の展望

ロシアの侵攻は、ウクライナ映画産業に深刻な影響を与えましたが、ウクライナの人々の強い意志と、国際的な支援によって、ウクライナ映画は生き残りを賭けた戦いを続けています。戦争を乗り越え、新たな表現を生み出し、世界にウクライナの文化を発信し続けることが、ウクライナ映画の今後の課題であり、同時に未来への希望と言えるでしょう。

主要なウクライナ映画一覧

(※本文中のリストは省略)

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