ウスタシュ2世の生涯
11世紀の
フランスに生きた
貴族、ウスタシュ2世は、ブローニュ伯、ランス伯として知られています。彼は「長髭のウスタシュ」という異名を持ち、その生涯は複雑な政治情勢と数々の人間関係に彩られています。
生い立ちと出自
ウスタシュ2世は、
1015年から1025年の間に誕生したと考えられています。父はブローニュ伯ウスタシュ1世、母はルヴァン伯ランベール1世の娘マティルドでした。兄弟には、パリ司教ゴドフロワ、ランス伯ランベール2世がいました。ブローニュ伯は
フランドル伯の封臣でしたが、実質的には半独立の地位を保っていました。彼は父方、母方の双方を通じて
カール大帝の血を引いており、イングランドの年代記作家オルデリクス・ヴィタリスは彼を「フランク王国で最も高名な王である
カール大帝の血を引く、高貴な生まれの人」と評しています。また父方ではイングランドの
アルフレッド大王の子孫でもありました。
イングランドとの関わり
1035年、ウスタシュ2世はイングランド王エゼルレッド2世の娘ゴーダと結婚しました。ゴーダはノルマンディ公リシャール1世の娘エマを母に持ち、前夫との間に子供がいました。この結婚により、ウスタシュは義子たちと同盟関係を結び、さらにゴーダの兄弟である
エドワード懺悔王がイングランド王に即位すると、その同盟者となりました。婚姻を通してイングランドに広大な領地を得ましたが、ゴーダとの間には子を儲けることはありませんでした。
結婚と破門
ゴーダの死後、1049年頃にウスタシュ2世は上ロートリンゲン公ゴットフリート鬚公の娘イダと再婚しました。二人の間にはウスタシュ3世、ボートゥアン1世、ゴドフロワの3人の子供が生まれました。しかし、この結婚は1049年のランス教会会議で近親婚を理由に破門される原因となりました。当時の教皇レオ9世は、神聖ローマ皇帝ハインリヒ3世が擁立した人物であり、ウスタシュは皇帝と対立するゴットフリートと同盟関係にあったため、破門されたと推測されています。同時期には、
フランドル伯ボードゥアン5世とノルマンディー公ギヨーム2世との婚姻も禁止されています。
イングランド訪問と政治的対立
1051年、ウスタシュ2世はイングランドを訪れ、
エドワード懺悔王と交渉を行いました。目的ははっきりとはしていませんが、エドワードの後継者問題が関係していたと考えられています。ウスタシュは義理の息子であるラルフやゴーティエを後継者に推そうとしたのか、あるいは自らを推したのかは不明です。イングランドからの帰路、ウスタシュの家臣とドーバー市民との間で乱闘事件が発生し、ウスタシュはエドワードにドーバーへの懲罰を求めました。しかし、ウェセックス伯ゴドウィンがこれを拒否したため、ゴドウィン一族は国外追放の憂き目に遭います。翌年にはゴドウィン家は復帰を果たしています。
ゴドウィンとウスタシュの間には、以前から政治的対立があったとされています。1036年には、エドワードの兄弟アルフレッド・アシリングが殺害された事件に関与していたとされ、アルフレッドにはブローニュ伯の家臣が同行しており、ともに殺害されています。ゴドウィンは、
フランドル伯ボードゥアン5世の異母妹を息子トスティに娶らせていましたが、ボードゥアンはウスタシュと対立関係にありました。さらに、ゴドウィンの別の息子スヴェンは、ウスタシュの義子であるヘレフォード伯ラルフと確執を抱えていたことも、両者の関係を複雑にしていました。
ノルマンディー公との対立
ウスタシュ2世にとって、ノルマンディー公ギヨーム2世もまた脅威となりつつありました。ウスタシュはギヨーム2世の政敵であるアルク伯ギヨームを支援していましたが、アルク伯は敗北し、ウスタシュは彼を保護することになりました。ウスタシュの親族で同盟者のポンチュー伯アンゲランもギヨーム2世に敗れて命を落とし、その後継者ギーはギヨーム2世に服属させられました。さらに、ギヨーム2世は
フランドル伯ボードゥアン5世の娘マティルドと結婚し、ノルマンディー公と
フランドル伯の連携はウスタシュにとっては大きな懸念材料でした。
その後の動向とランス伯位の継承
1054年、ウスタシュの弟ランベール2世が、
フランドル伯に味方してハインリヒ3世と戦い、戦死しました。これによって、ウスタシュ2世はランス伯の地位も継承することとなりました。同時期に、ウスタシュを取り巻く外交状況は変化し、ヘレフォード伯ラルフが死去したことでイングランド宮中でのゴドウィン家の勢力が増大。また、ウスタシュと
フランドル伯の関係は改善へと向かいました。
ウスタシュ2世は、複雑な政治情勢の中で、様々な勢力と関わりながら、その生涯を過ごしました。彼の人生は、当時のヨーロッパ社会の複雑な人間関係と権力闘争を映し出す鏡と言えるでしょう。