ウトゥック

古代バビロニアの精霊、ウトゥック（Utukku / Udug）とは

ウトゥックは、古代バビロニアにおいて信じられていた精霊の総称です。その姿は一定ではなく、人間の姿をしているものもいれば、半身半獣の姿をしているものもいるとされています。

ウトゥックの姿

草野巧監修『幻想動物事典』：ウシの頭と翼を持つ人間
キャロル・ローズ：角の生えた獣の頭と翼を持つ人間

このように、文献によって描写は異なりますが、いずれも人外の要素を持つ姿で描かれています。

悪霊としてのウトゥック

ウトゥックの中でも、特に悪霊はエディンム（Edimmu / Ekinmu）と呼ばれ、生前に適切な埋葬を受けられなかった人間の魂が変化したものと考えられています。

エディンムは、人間に憑依したり、病気を引き起こしたり、吸血鬼のような行動をすると言われています。また、以下のような悪霊もウトゥックに含まれるとされます。

ガルラ霊：冥府の神エレシュキガルに仕える霊
ナムタル霊：地上で病気を撒き散らし、死をもたらす霊
ディムメ、ディムメア：産褥熱や子供への病気を引き起こす霊
アル：半人半獣で夜道を徘徊し、人間に憑依する霊
アッハーズ：皮膚や粘膜を黄色くする病気を引き起こす霊
クアート・エチムミ：高熱と激しい頭痛を伴う髄膜炎や脳膜炎を引き起こす霊
ラビス：女性の姿をした霊で、人の私生活を覗き見する
クビュ：早産を導く霊
ペル・ウウリ：夢遊病を起こさせる霊
アシャック：結核、熱病をもたらす霊
ラバス：人間を地獄へ連れ去る魔女
マシュキム：人を監視する霊

また、ウトゥック自体が悪霊を指すという説もあり、その場合は、

慰められるまで彷徨い続ける死者の霊
エアの胆汁から生まれた悪霊

の2つに分けられるとされています。アンナ・フランクリンは、ウトゥックをサッキュバスのような存在として捉えています。

善霊としてのウトゥック

ウトゥックの中には、善なる精霊も存在します。代表的なものとして、ラマッス（Lamassu）とシェドゥ（Shedu）が挙げられます。

ラマッス：4つの翼を持ち、頭部が人間や鳥、動物の姿で表される
シェドゥ：人間の頭部を持ち、前脚の付け根から一対の翼を生やした牛の体をしている

シェドゥ（あるいはシェディム）は、ペルシャやバビロニアでは善なる性格が強調されましたが、ユダヤでは悪霊と見なされることもありました。

このように、ウトゥックは多様な姿と性質を持つ精霊であり、古代バビロニアの人々の生活や信仰に深く根ざしていました。

参考資料

草野巧監修『幻想動物事典』新紀元社　1997年刊　ISBN-488317283X
キャロル・ローズ『世界の妖精・妖怪事典』原書房　2003年刊　ISBN-4-562-03712-1
アンナ・フランクリン『図説妖精百科事典』東洋書林　2004年刊　ISBN-488721636X
健部伸明と怪兵隊『幻想世界の住人たち2』(文庫版)新紀元社　2011年刊　ISBN-4775309633

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