ウプシロン中間子

ウプシロン中間子（Υ中間子）とは

ウプシロン中間子（Υ中間子）は、ボトムクォーク (b) と反ボトムクォーク (b̄) が結合してできる中間子、すなわちボトモニウム (b b̄) の一種です。ラテン文字のYとの混同を避けるため、「ϒ」のように特別なフォントや表記が用いられることがあります。

概要

ボトモニウムには様々な種類がありますが、電子-陽電子衝突実験で生成されるものを特にウプシロン中間子と呼びます。具体的には以下の特徴を持ちます。

スピン: それぞれ1/2のスピンを持つボトムクォークとその反粒子が、スピン1（スピン三重項）の状態で結合。
軌道角運動量: ボトムクォークとその反粒子が、軌道角運動量0（S状態）で結合。

ウプシロン中間子はΥ(nS)と表記され、nは主量子数を表します。また、質量のおおよその値をMeV単位で表すこともあります（例：Υ(10860)）。最も質量の小さいΥ(1S)は、狭義のウプシロン中間子と呼ばれることもあります。

クォークの構成から、ウプシロン中間子は電荷やフレーバーを持たず、アイソスピンも0です。量子色力学（QCD）の理論によれば、スピンが0の状態はウプシロン中間子よりもわずかに（0.1〜1%程度）質量が軽くなると予測されています。

詳細

Υ(1S)

1977年にフェルミ国立加速器研究所のレーダーマン率いるチームによって発見されました。この発見は、ボトムクォークの存在を証明するものでもありました。質量は9460.30 ± 0.26 MeVです。

寿命は約10⁻²⁰秒と非常に短く、電子 (e)、ミュー粒子 (μ)、タウ粒子 (τ) の3種類のレプトン対にそれぞれ約2.5%の割合で崩壊するなど、多数の崩壊モードが存在します。

Υ(2S)

質量は10.02326 ± 0.00031 GeVです。これもまた多様な崩壊モードを持ち、Υ(1S)と荷電パイ中間子対への崩壊が約20%、Υ(1S)と中性パイ中間子対への崩壊が約10%、レプトン対（e、μ、τ）への崩壊がそれぞれ約2%程度です。

SLACのPEP-II加速器では、2008年2月からΥ(2S)とΥ(3S)を生成する実験が行われました。その結果、ボトモニウムの基底状態（Υ(1S)に対応するスピン0の状態）が発見され、基底状態とΥ(1S)との質量差は71.4 +2.3 −3.1 ± 2.7 MeVと報告されました。

Υ(3S)

質量は10.3552 ± 0.0005 GeVです。Υ(2S)とパイ中間子対などへの崩壊が約10%、Υ(1S)とパイ中間子対などへの崩壊が約7%の割合で起こります。レプトン対（μ、τ）への崩壊もそれぞれ約2%程度ですが、電子対への崩壊はごくわずかです。

Υ(4S) (Υ(10580))

質量は10.5794 ± 0.0012 GeVです。ほぼ全て（96%以上）がB中間子対に崩壊し、荷電B中間子対と中性B中間子対の割合はほぼ等しくなっています。そのため、BファクトリーではこのΥ(4S)が生成され、素粒子実験において重要な役割を果たします。

Υ(10860) (Υ(5S))

質量は10.865 ± 0.008 GeVです。主な崩壊モードは、B中間子対類、またはそれと1〜2個のパイ中間子への崩壊が計60%程度、チャームB中間子対類への崩壊が20%程度です。

Υ(11020)

質量は11.019 ± 0.008 GeVです。崩壊については、ごくわずかな割合で電子対への崩壊が観測されているのみで、現時点では詳細は不明です。

関連項目

中間子
ボトムクォーク
ボトモニウム
Bファクトリー

もう一度検索