ウルアの妖術

クラーク・アシュトン・スミスによって書かれた短編ホラー小説で、原題は『The Witchcraft of Ulua』です。この作品は、パルプ雑誌『ウィアード・テールズ』の1934年2月号に初めて掲載されました。スミスの創造した終末世界「ゾティーク」を舞台とする物語の一つであり、特に堕落した老王ファモルグとその周辺人物に焦点を当てた作品群に含まれます。

あらすじ

物語は、ゾティーク大陸のタスーン国に暮らす純朴な21歳の青年、アマルザインから始まります。彼は、王に直接仕えることができる酌人の職を得て、都へと旅立ちます。この職は、成功すれば高位への道が開かれるため、多くの若者が憧れるものでした。旅の途中で、アマルザインは砂漠に隠棲する大伯父の賢者サブモンを訪ねます。サブモンは、都に蔓延する悪徳や妖術について孫のような又甥に厳しく警告し、護身用の銀の護符を授けます。都の退廃を知らないアマルザインでしたが、サブモンの忠告と護符を大切に受け取り、首都ミラーブへと向かいます。

都に到着したアマルザインが見たのは、耄碌したファモルグ王が治める、贅沢と腐敗に満ちた王宮でした。質実剛健な田舎育ちのアマルザインは戸惑いますが、両親とサブモンから受けた教えを胸に、自らを律することを忘れません。連日の宴が催される中で、彼は酌人の務めをこなしつつも、常に節度を保ちました。王が酔いつぶれて眠る夜は、数学や読書に励みます。一月ほどが過ぎた頃、アマルザインは、ファモルグ王の一人娘であるウルア王女にまつわる様々な噂を耳にするようになります。それは、王女の奔放な行状や妖術に関するものでした。

ある日、アマルザインはウルア王女の侍女によって強引に王女の部屋へと連れて行かれます。そこで、王女本人から露骨な誘惑を受けますが、アマルザインはこれを断固として拒絶します。ウルアはアマルザインをその場は帰しますが、「すぐに私の元へ戻ってくることになるだろう」と告げ、不吉な言葉を残します。

王女の部屋を辞して以来、アマルザインの周りには、彼が望みもしないウルアの幻影がつきまとうようになります。しかし、サブモンから授けられた護符の力が彼を守り、アマルザインはなおウルアに関心を持つことはありませんでした。一方、宮廷内では、清廉なアマルザインがウルア王女の虜にならないことが噂となり、やがて公然の事実となります。すると今度は、アマルザインはより悪質で不浄な妖術に襲われるようになります。腐敗した光景や、エムプサエやラミアといった怪物たちの幻影が見えるようになり、意識は乱され、かつて楽しんだ読書や数学に集中することもできなくなります。これらの幻影はアマルザインにしか感知できず、護符をもってしても完全に防ぐことができませんでした。アマルザインはウルアの妖術に深く苦悩します。

耐えきれなくなったアマルザインは、王に暇乞いをし、都を去る決意をします。呪いの苦痛に苛まれながらも、彼は助けを求めて大伯父サブモンの砂漠の住居へと向かいます。アマルザインから事情を聞いたサブモンは、鏡を取り出し、それをアマルザインに見せながら、自身は呪詛返しの儀式を開始します。鏡にはウルア王女の部屋が映し出され、そこへ鏡を通じてアマルザインに取り憑いていた亡霊たちがなだれ込み、ウルアと彼女の愛人たちに容赦なく襲い掛かります。続いて激しい地震が発生し、ウルアの部屋の床は裂け、彼女と取り巻きたちはその亀裂に呑み込まれて姿を消します。

サブモンは事前に天体の運行を読み解き、ファモルグ王とミラーブの街の運命を知っていました。大地震によって、堕落しきった首都ミラーブは廃墟と化しますが、砂漠に立つサブモンの住居は頑丈に建てられていたため、崩壊を免れます。肉欲や現世の享楽の虚しさを悟ったアマルザインは、サブモンの唯一の弟子となり、以降の人生を彼と共に学究の道に捧げることになります。

主な登場人物

アマルザイン: 物語の主人公。純朴な田舎育ちの青年で、王の酌人として都へ出仕する。
サブモン: 賢者と呼ばれる世捨て人。アマルザインの大伯父であり、彼を妖術から守る。
ウルア王女: ファモルグ王の娘。妖術を使い、奔放な生活を送る。
ファモルグ王: タスーン国の老王。堕落した生活を送り、政治を顧みない。
ヨス・エブニ: 古代の聖者、賢者、魔術師。彼の遺灰がアマルザインの護符に宿る。

収録

本作は、以下の作品集に収録されています。

『ゾティーク幻妖怪異譚』（創元推理文庫、大瀧啓裕訳）
* 『魔術師の帝国1 ゾシーク篇』（ナイトランド叢書、安田均訳、「ウルアの魔術」の題で収録）

ウルアの妖術