エアボート

エアボートとは

エアボートは、平底で比較的小型の特殊な船舶であり、プロペラボートまたはファンボートとも呼ばれます。航空機用または自動車用のエンジンで船尾に備えられたプロペラを駆動して前進します。初期の航空史では水上機や飛行艇を指す言葉として使われていましたが、本稿で解説するエアボートとは異なります。

構造と特徴

標準的なエアボートは、平底の船体後部に大出力エンジンを搭載し、後方の高い位置に大型プロペラが取り付けられています。プロペラは、鳥かご状の金属枠で保護されており、異物の吸い込みや巻き込みによる事故を防ぎます。

操舵は、航空機と同様にプロペラ後方に設けられた方向舵を操縦桿で操作して行います。ブレーキは装備されていないため、減速や停止は操船技術に依存しますが、一部の機種にはプロペラピッチを逆転させることで後進機能を備えたものや、クラムシェル式の逆進機構を備えたものもあります。

温暖な湿地帯で使用されるエアボートは、水辺の植物に視界を遮られないよう、操縦席がプロペラのすぐ前方の高い位置に設けられていることが多いです。一方、寒冷地や救助活動を目的としたエアボートには、操縦室や救助者保護用の船室を備えたハーフキャビンやキャビンタイプも存在し、外観がホバークラフトに似ているものもあります。

シベリアなど、夏は湿原、冬は雪原となる地域での運用を想定した水陸両用エアボートもあり、橇（アエロサン）のように雪上を滑走することも可能です。エンジンの出力は500馬力を超えるものも存在します。

用途

エアボートは、特にアメリカで人気があり、エバーグレーズ国立公園などの湿地帯での観光用レジャーボートとして有名です。専門メーカーも多く存在し、キットを組み立てて自作を楽しむ人もいます。また、洪水などの水害における救助艇としても利用されています。2005年のハリケーン・カトリーナによるニューオーリンズの大規模洪水では、全米からエアボートが集められ、救助活動に貢献しました。

日本においては、洪水や津波で冠水した水田地帯の環境が湿地帯と類似していることから、救助艇としてエアボートの導入を検討する自治体が増えています。アメリカ軍やタイ軍などは、湿地帯や水田地帯でのエアボートの機動力を早くから認め、軍用エアボートを所有しており、ベトナム戦争では、通常の船舶が使用できない地域で哨戒艇として使用されました。

利点と欠点

エアボートの利点は、平底であることと、水面下にスクリューや舵などの突起物が一切ないことです。そのため、水面下の岩や瓦礫でスクリューや舵を損傷したり、ビニールや海草を巻き込む心配がなく、浅い水路や河川、池、湿地、沼地、凍った湖など、様々な場所で容易に操船できます。また、スクリューで漂流者を傷つける心配もありません。高出力エンジンを搭載したエアボートは、直径1メートル程度の丸太も乗り越えることができます。これらの利点から、欧米では氷上や河川氾濫による冠水地域での救助活動に最適な乗り物として利用されています。

日本では、津波災害における大量の瓦礫が漂流する海域での救助活動において、漂流瓦礫に乗り上げて進むことができるエアボートの利用が注目されています。2015年の鬼怒川堤防決壊による常総市の冠水被害では、国内初のエアボートによる救助活動が行われ、その有効性が実証されました。また、土砂災害時の泥流域においても迅速な救助活動が期待されています。

一方、エアボートの欠点は、プロペラ推進による騒音が大きく、燃費が悪いことです。そのため、近年ではプロペラの翅（はね）の枚数を増やす多翅化や、軽量高強度のカーボン素材の採用、エンジンマフラーの取り付けなど、騒音対策が講じられています。日本の沿岸は人口密集地が多いため、導入にあたってはより徹底した騒音対策が必要です。救助活動の際には、サイレントタイムの導入などの運用上の工夫も求められます。

また、推進力が航空力学に基づいているため、エアボートの能力を維持・向上させるには、船舶知識だけでは対応しきれないという難点があります。そのため、海外のように自作を楽しみたいと思っても、自動車の車検に相当する船舶検査（船検）を通過させることが難しいのが現状です。操縦技術についても、専門のインストラクターによる指導が不可欠ですが、日本ではインストラクター資格保有者がほとんど存在しません。未熟な知識での操船は、船首の激しいバンピングや旋回時のカウンタートルクにより転覆を引き起こす危険性があります。

日本での普及

1953年の西日本水害では、米空軍所有のエアボート2隻が出動し、冠水した筑後川流域での救助活動に用いられました。海上保安庁も1959年にエアボート「ひえん」を導入し、1969年まで救助艇として運用しました。その後は、アメリカのテレビドラマに登場する乗り物として認識される程度でしたが、2011年の東日本大震災をきっかけに、フレッシュエアー社が日本で唯一エアボート製造を事業化したことで、救難艇としての普及が模索されています。

2015年の関東・東北豪雨では、フレッシュエアー社が提供したエアボートが茨城県常総市の鬼怒川での救助活動に活用され、46名を救助しました。2017年には、南海トラフ地震対策として高知県警察にエアボートが採用されたほか、鬼怒川の大水害に見舞われた茨城県境町が水害救難や観光を目的に、自治体として初めてエアボートを導入しました。2019年には、東京都が災害即応対処部隊創設に伴いエアボートの導入を検討し、2020年3月には大小各1艇のエアボートが東京消防庁に納入されました。

国内メーカー

日本国内での製造メーカーは、フレッシュエアー社のみです。輸入代行を行う業者は存在しますが、エアボートという特殊な艇を維持するための専門的な知識や技術を提供できる業者は限られています。また、輸入されたエアボートのほとんどはレジャー目的で使用されています。

エアボートは、その уникальныйな特性から、災害救助やレジャーなど、様々な分野での活躍が期待されています。今後の普及と技術の発展が注目されます。

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