エアリアル・リコンフィギャラブル・エンベデッド・システム

ARES（Aerial Reconfigurable Embedded System）

ARES（エアリアル・リコンフィギャラブル・エンベデッド・システム）は、「空中再構成可能組み込みシステム」と訳され、アメリカ国防高等研究計画局（DARPA）によって推進された、無人の垂直離着陸（VTOL）航空機プロジェクトです。このプロジェクトは、地形に左右されない迅速な輸送能力を提供し、特に地上輸送が待ち伏せ攻撃やIED（即席爆発装置）などの脅威にさらされる状況での利用が想定されていました。

ARESの構想は、2009年に始まった「トランスフォーマー TX（Transformer TX）」プロジェクトに端を発します。TXプロジェクトは、兵士4名と装備品を輸送可能な、走行と飛行のハイブリッド機能を持つ車両の開発を目指すものでした。地上の障害物や脅威を回避し、ロジスティクスと部隊の展開能力を飛躍的に向上させることを目的としていました。TXは5年間で3フェーズにわたる計画で、VTOL能力、効率的な飛行性能、そして既存の回転翼機に匹敵する戦闘範囲を実現する重要技術の開発と実証に焦点が当てられました。このプログラムでは、最低限、兵士4名と主要装備品を搭載し、十分な飛行性能と航続距離を持つVTOL航空機として構成できる地上車両を構築する能力を示すことが求められていました。

ARESは、TXプロジェクトの基本的なアイデア、すなわち地上脅威からの回避や地形に依存しない輸送といったコンセプトを引き継ぎつつ、無人プラットフォームとして特化して開発が進められました。主要な機能として、以下のような特徴を備えていました。

無人VTOLプラットフォーム: 人員が搭乗せず、遠隔操作または自律飛行により運用されます。
多様なペイロード輸送: 特定のミッションモジュールを取り付けることで、貨物配送、患者後送、ISR（諜報、監視、偵察）など、様々な目的に対応できます。
高い積載能力: 一つのミッションモジュールで最大3,000ポンド（約1,400 kg）のペイロードを輸送することが可能でした。
駆動システム: ツイン傾斜ダクテッドファンによって推進力を得ていました。
システム構成: 独自の電源システム、燃料供給、デジタル飛行制御、およびリモートからのコマンド・アンド・コントロールインターフェースを備えていました。

ARESは、ヘリコプターなどの航空機を持たない部隊に対して、迅速かつ安全な物資・人員輸送手段を提供することを目指していました。これにより、地上での移動に伴う危険を減らし、部隊の機動性と生存性を高めることが期待されていました。

しかしながら、DARPAは2019年5月にARESの研究活動を中止することを発表しました。その主な理由として、開発コストの大幅な増加とプロジェクトの遅延が挙げられています。

TXプロジェクトは車両全体の開発・統合を担当するタスクAと、個別の重要技術コンポーネントを開発するタスクBに分けられて進行していました。

ARESおよびTXプロジェクトは、将来の「空飛ぶクルマ」や高度な空中モビリティシステムの実現に向けたDARPAの意欲的な取り組みの一つでしたが、技術的、コスト的な課題に直面し、開発は途中で終了しました。

関連項目

空飛ぶクルマ

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