エイント・シー・スウィート

「エイント・シー・スウィート」：ジャズエイジからビートルズまで愛された名曲

1927年、世界はまだジャズエイジの熱気に包まれていました。そんな時代を彩る名曲として誕生したのが、「エイント・シー・スウィート（Ain't She Sweet）」です。作詞はジャック・イェレン、作曲はミルトン・エーガーという黄金コンビによって生み出されたこの曲は、軽快なリズムとキャッチーなメロディーで瞬く間に人々の心を掴みました。

エーガーが自身の娘、シャナのために作曲したというエピソードも、この曲に温かい魅力を与えています。出版元はエーガー、イェレン＆ボーンスタイン社。当時としては画期的な商業的な成功を収め、数多くのアーティストがこぞってカバーするなど、20世紀前半の音楽シーンを代表する作品となりました。

初レコーディングと大ヒット

1927年1月17日、ニューヨークでルー・ゴールド・ウィズ・ザ・メロディ・メンによって初めてレコーディングされました。ボーカルはマレー・アムスター。Gannett 6068という品番で発売されたシングルは、B面に「ユー・シュッド・シー・マイ・トッツィー（You Should See My Tootsie）」を収録。その後も、スクラッピー・ランバートをボーカルに迎えたバージョンがPerfect 14777という品番で発売されるなど、複数のバージョンが制作され、いずれも大きな人気を博しました。

ジーン・オースティン、フランク・シナトラといった錚々たる面々もこの曲をレコーディング。さらに、映画『Margie』（1946年）、『You Were Meant for Me』（1948年）、『愛情物語』（1956年）など、数々の映画作品にも使用され、その名声を不動のものにしました。

ビートルズの「エイント・シー・スウィート」：ハンブルク時代の貴重な記録

ビートルズもまた、「エイント・シー・スウィート」の虜になったアーティストの1つでした。1957年から1962年にかけて、ライブで頻繁に演奏していた彼らは、この曲を独自の解釈でカバーしています。

ジョン・レノンは、母親ジュリアの影響でジーン・ヴィンセントのバージョンを知っていたとされています。音楽史家の中には、レノンのボーカルアレンジはジーン・ヴィンセントのカバーを下敷きにしたと分析する者もいます。しかし、一方で、1959年のダフィー・パワーによるカバーバージョンからの影響も指摘されています。

ビートルズによる初のプロレコーディングは、ハンブルクのフリードリヒ・ベルト・ハレで行われました。ベルト・ケンプフェルトのプロデュース、カール・ヒンゼのエンジニアリングの下、彼らはトニー・シェリダンのバックバンドとしてレコーディングに参加。このセッションでレノンがリードボーカルを務めた「エイント・シー・スウィート」は、シェリダン自身は参加していない2曲のうちの1つでした。

レコーディング時のエピソードは興味深いものです。メンバーは当初、レコーディングの目的を誤解しており、レコード契約を期待していた彼らにとって、バックバンドとして演奏することになった現実は、落胆を招いたと言われています。レノンは後に、この時のことを「ぼくらはみんな、チョロいもんだと思ってた。ドイツにはくだらないレコードしかないから、自分たちならそれより断然いいレコードが作れるに決まってると思ってた」と振り返っています。

音楽評論家からは、ビートルズのこのバージョンは、将来の彼らの代表作とは言い難い、と厳しい評価が下されています。演奏スキルは、まだ発展途上であったと言えるでしょう。しかし、このレコーディングは、ビートルズの歴史において、プロとしてのキャリアの始まりを告げる重要な出来事だったと言えるでしょう。

リリースとその後

レコーディング後、ビートルズはシングルとして発売されることを期待していましたが、実際には発売されず、代わりに「マイ・ボニー」がリリースされました。その後、フランス、イギリス、アメリカなどでシングルとして発売され、Billboard Hot 100では最高位19位を記録しました。

1969年には、レノンがソロ時代に「エイント・シー・スウィート」を即興演奏した音源も残されています。この時の演奏は、ジーン・ヴィンセントのカバーバージョンに近いスタイルであったと指摘されています。さらに、1995年のドキュメンタリー『ザ・[[ビートルズ・アンソロジー]]』では、存命のメンバー3人がこの曲を演奏する様子が収録されました。

「エイント・シー・スウィート」は、時代を超えて愛され続ける名曲です。その歴史と魅力を、これからも多くの人々が語り継いでいくことでしょう。

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