トニー・シェリダン

トニー・シェリダン：ビートルズと共に歩んだロックンロール人生

1940年生まれのイギリス人ミュージシャン、アンソニー・エズモンド・シェリダン・マギニティは、トニー・シェリダンとして知られるロックンロール界の重要な人物です。彼は、ビートルズがまだ無名だった1960年代初頭のドイツで、彼らをバックバンドに迎えてレコーディングを行い、世界的な名声を博しました。単なる共演者という枠を超え、ビートルズ、特にポール・マッカートニーに音楽面での大きな影響を与えたとされています。マッカートニーはシェリダンを「ティーチャー（先生）」と呼ぶほどに敬愛していました。

クラシック音楽からロックンロールへ

ノーフォーク州ノリッジで生まれたシェリダンは、幼少期に両親からクラシック音楽の影響を受け、7歳からヴァイオリンを習っていました。しかし、やがてギターに転向し、1956年には最初のバンドを結成します。18歳となった1958年には、BBCテレビの音楽番組『Oh Boy!』に出演するなど、早くから音楽活動を積極的に行っていました。その後、バンド「ジェッツ」の一員としてドイツのハンブルクに渡りますが、他のメンバーが帰国する中、シェリダンはハンブルクに残ってソロ活動を始めました。ハンブルクの歓楽街レーパーバーンの名門クラブ「トップ・テン・クラブ」での演奏は、彼のキャリアにおける重要な一歩となりました。

ビートルズとの出会い、そして共同レコーディング

ハンブルクでの活動中に、シェリダンは様々なバックバンドと共演していました。そして1961年、彼と既に面識のあったビートルズ（ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、スチュアート・サトクリフ、ピート・ベスト）が、シェリダンのバックバンドを務めることになります。二人の関係は、単なるシンガーとバンドの関係にとどまらず、互いに影響を与え合う、より深い共生関係でした。時にはシェリダンがビートルズのステージに参加し、ギタリストとして演奏することもありました。

ポリドール・レコードのベルト・ケンプフェルトは、シェリダンとビートルズの共演を見て、共同でのレコーディングを提案します。こうして生まれたのが、有名な「ポリドール・セッション」です。1961年に録音されたシングル「My Bonnie/The Saints」はドイツで5位を記録するヒットとなり、その後も数枚のシングルがリリースされました。「My Bonnie」は後にアメリカでも発売され、現在ではコレクターアイテムとして非常に高価なものとなっています。リンゴ・スターも一時シェリダンのバックバンドに参加していましたが、シェリダンのリハーサルなしの演奏スタイルに馴染めず、すぐに元のバンドに戻ってしまいます。

ビートルズとのクレジット、そして音楽性の変化

1962年には、アルバム『My Bonnie』がリリースされました。このアルバムでは、ビートルズのバンド名がドイツ語の隠語を連想させるとして、「ザ・ビート・ブラザース」とクレジットされました。しかし、ビートルズが世界的に有名になると、このアルバムはイギリスでも発売され、「ザ・ビートルズ」の名でクレジットが変更されました。ビートルズ初期の貴重な音源として、その後も何度も再発されています。

1960年代半ば、シェリダンの音楽スタイルは大きな変化を遂げます。得意としていたロックンロールから、ブルースやジャズへと転向したのです。この変化は、一部のファンには受け入れられましたが、多くのロックファンからは拒絶されました。彼のアルバム『Just A Little Bit Of Tony Sheridan』のライナーノーツには、ロックよりもジャズとクラシックを好み、アメリカ南部へ行って本場のブルースやジャズを体験したいという彼の思いが記されています。

ベトナムでの活動と晩年

シェリダンは、その後もハンブルクで活動を続けましたが、ポリドールとの契約は終了しました。1967年には、ビートルズとの縁による名声に幻滅し、ベトナム戦争に関心を抱き、現地で連合軍の慰問公演を行いました。しかし、公演中に銃撃を受け、バンドメンバーの一人が命を落とすという悲しい出来事も経験しました。この時の誤報により、シェリダン本人が死亡したという報道も流れたほどでした。シェリダンは、この活動に対してアメリカ陸軍名誉大尉の称号を授与されました。

1970年代には西ドイツでブルースのラジオ番組を運営し、1978年にはハンブルクのスタークラブでエルヴィス・プレスリーのバックバンドであるTCBバンドと共演するなど、精力的に活動しました。2002年にはアルバム『Vagabond』をリリースし、晩年は妻と共にハンブルク郊外で生活していました。音楽活動以外にも、紋章学に興味を持ち、紋章のデザインも手掛けていました。そして2013年、心臓手術の後、72歳でこの世を去りました。

シェリダンが残した音楽は、ロックンロールの歴史において重要な位置を占めており、彼の生涯は、音楽への情熱と、時代の波に翻弄されながらも生き抜いた一人のアーティストの物語として、後世に語り継がれるべきでしょう。彼の音楽は、ビートルズ初期の貴重な記録としてだけでなく、時代を超えて多くの人々に感動を与え続けることでしょう。

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