エウテュプローンのジレンマ

エウテュプローンのジレンマ

エウテュプローンのジレンマは、古代ギリシャの哲学者プラトンによる著作『エウテュプローン』の中で示される重要な哲学的問題です。この問題は、ソクラテスがエウテュプローンに尋ねる形で提示されています。「善とは何か？」という深遠な問いに対する答えとして、「神が望むことが善である」という立場が考えられますが、この場合、善と神の関係性に対する二つの異なる解釈が生じます。

善とは何か：神の望みとその関係

最初の解釈では、神が望むからこそそれが善である、という立場です。この見解においては、「神が善を決定した」という論理が働きます。しかしこの立場に立つと、善の存在理由が「神の意志」によってのみ成立し、道徳に対する新たな疑問が生じます。つまり、善と道徳の正当性が神の意志に依存してしまうため、もしその神が何かを「善」と定義したとしても、その基準は恣意的になりかねません。たとえば、神が自由に善を決めることができるとするならば、悪を指定することもでき、結果として善と悪の区分が曖昧になる恐れがあります。

一方、後者の解釈では、善は神とは独立した実在のものであるとされ、これを基に考えると、「神＝森羅万象の創造者」という立場では矛盾が生じる可能性があります。なぜなら、善が神の外に存在する場合、神はその善に従わなければならず、自らの本質を超える存在とならざるを得ないからです。

様々な解答の提示

エウテュプローンのジレンマに対する解答として、いくつかの異なる視点が提唱されています。まずは「本性説」です。この見解はトマス・アクィナスなどのキリスト教学者によって支持されており、神は善を望むが、善は神の本質そのものであるとされます。このため、神が恣意的に善を変更することはなく、神と善は一体のものと考えられます。

次に「必然と可能説」を挙げることができます。この説を唱えるリチャード・スウィンバーンによれば、善には「可能」な善と「必然」な善という二つが存在します。神は多様な善を持つ世界を創造する能力がありますが、同時にどの世界でも存在する普遍的な善も存在するとされます。

最後に「善の二様説」というアダムズによる見解も注目に値します。この説は、善には素朴な善と神の命令によって成立する善の二種類があるとし、神は悪意を持たないため、実際には両者が合一するが、神の意志によって善として命じられることの変動があると指摘しています。この観点は、善が神の命令に依存しえる可能性を示唆します。

結論

エウテュプローンのジレンマは、善と神との関係を深く掘り下げる哲学的題材であり、神の意志と道徳の正当性についての議論を喚起します。これらの解答は、善の本質やその源泉についての洞察を与えており、今日においても哲学や神学における重要な問題を提起し続けています。

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