エウネーオス

エウネーオス（Eunēos）

エウネーオスは、古代ギリシアの神話に登場する人物です。彼の父は有名な英雄イアーソーンであり、母はレームノス島を統治していた女王ヒュプシピュレーでした。彼はネブロポノス、デーイピュロス、あるいはトアースといった兄弟がいたと伝えられています。

彼の母親であるヒュプシピュレーは、レームノス島の女性たちが島内の男性を皆殺しにするという悲劇的な事件が起きた際、自身の父である王トアースだけは密かに救い出し、島から逃がしました。しかし、この行為が他の女性たちに知られたため、彼女は島を追われ、ネメアーの王リュクールゴスのもとで奴隷として働くことになります。そこで彼女は王の幼い息子オペルテースの世話をしていましたが、目を離した隙にオペルテースは蛇に噛まれて命を落としてしまいます。この事態に激怒した王妃エウリュディケーはヒュプシピュレーを罰しようとしますが、エウリーピデースの伝えるところによれば、高名な予言者アムピアラーオスの仲介によって彼女は窮地を脱したとされています。

一方、幼いエウネーオスと彼の兄弟（一説にはトアースとされる）は、父イアーソーンが率いるアルゴナウタイの一員として、はるか東方の地コルキスを目指す冒険に同行したと伝えられています。父イアーソーンが亡くなった後、兄弟は伝説的な音楽家であり詩人でもあるオルペウスによって、吟遊詩人の国として知られるトラーキアの地で養育されました。そこで、エウネーオスは特に音楽の技芸を深く学び、その才能を開花させます。彼の兄弟であるトアースは、対照的に戦いに関連する武具の扱いや戦術などを訓練されたと言われています。

成長したエウネーオスは、祖父であるトアースと再会を果たし、故郷であるレームノス島へと帰還します。その後、彼は兄弟とともに、生き別れとなった母ヒュプシピュレーの行方を捜し求めました。彼らがネメアーの地を訪れた際、偶然にも母ヒュプシピュレーとの再会を果たします。母は息子たちとの再会を喜び、親子の絆を取り戻しました。エウネーオスたちは母とともにレームノス島へと戻り、そこでエウネーオスは島の王位に就き、その地を統治することとなります。

彼の別の逸話として、ヒュギーヌスが伝えるところでは、エウネーオスは兄弟のデーイピュロスとともに、英雄ペルセウスが創設したとされる由緒あるネメアー競技祭に参加し、徒競走の種目で勝利を収めたことが記録されています。

後代の歴史において、エウネーオスはギリシア連合軍とトロイアの間で繰り広げられた大規模な戦争、すなわちトロイア戦争において重要な役割を果たします。レームノス島の支配者として、彼は遠征中のギリシア軍、特にアカイア勢に対して、その特産品である高品質のブドウ酒を大量に供給し、彼らの士気を支えました。

さらに、ホメロスが記した叙事詩『イリアス』の中では、エウネーオスに関する印象的なエピソードが語られています。彼は、アキレウスの捕虜となったトロイアの王プリアモスの子であるリュカーオーンを、自身の祖父トアースが代々受け継いできたという、芸術的価値の高い貴重な銀製の混酒器を身代金として払い、アキレウスから買い取ったとされています。しかし、彼はリュカーオーンを解放することなく、その後イムブロス島の王エーエティオーンに対して、買い取り価格の実に3倍にもあたる高値で再び売り渡しました。このエピソードは、当時の神話世界における捕虜取引や財宝の価値を示すものとして注目されます。

このように、エウネーオスは単なる王の子としてだけでなく、幼少期の逆境、オルペウスのもとでの教育、母との感動的な再会、そしてトロイア戦争における貢献など、多様な側面を持つ興味深い人物としてギリシア神話に名を残しています。

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