エウロペの略奪 (レーニ)

『エウロペの略奪』の紹介

『エウロペの略奪』は、イタリアのバロック期の著名な画家グイド・レーニによって1637年から1639年に制作された絵画です。これは、ギリシア神話に登場するエウロペとゼウス（ローマ神話ではユピテル）の物語を描いた作品です。このテーマは、レーニの晩年の代表作の一つとして知られています。レーニはこのテーマで三つの異なる作品を制作し、特に17世紀の美術史家カルロ・チェーザレ・マルヴァジーアによる記録が残っています。

主題と内容

神話によれば、フェニキアの古代都市テュロスに住む美しい王女エウロペに恋をしたゼウスは、彼女を誘惑するために白い牡牛に姿を変えます。エウロペは最初、牡牛に警戒を抱きますが、その優雅さに心を奪われていきます。彼女が牡牛の背に乗った瞬間、牡牛は立ち上がって海に飛び込み、クレタ島へとエウロペを連れ去ってしまうのです。こうして彼女はゼウスと結びつき、後のクレタ王ミノスや他の神々の母親となります。

この絵画では、レーニがエウロペを乗せた牡牛が海を泳いでいる様子が描かれています。画面の右側には小さく描かれた陸地があり、彼女が故郷から離れていることを示唆しています。エウロペは牡牛の首をしっかり抱きしめ、天を見上げており、その視線の先にはローマ神話のキューピッドであるエロスが描かれています。この瞬間、エウロペの心情がゼウスへの愛に変わる前の一瞬が巧みに表現されています。

技術とスタイル

レーニの後期スタイルは、明るい色合いと冷たく透明感のあるトーンが特徴です。この時期の作品では、澄んだ光が生み出す柔らかな影が効果的に使われており、彼女の優雅な姿勢と衣服のひだも美しく描かれています。マルヴァジーアの記録によると、レーニはカラヴァッジョとは異なり、開放的な光のなかで柔らかい陰影を好んで使用していました。

作品の来歴

1640年代初め、ポーランド国王ヴワディスワフ4世はこの絵画に深く感銘を受け、自らの手紙にその感謝の気持ちを記しました。彼はレーニの技術と作品に対する尊敬を表現し、この作品は王のコレクションに追加されていきました。1945年には、美術史家デニス・マホン卿がこの作品を取り入れました。彼は17世紀イタリア絵画の愛好者であり、その収集と研究に努めました。

マホンは、作品の美しい額縁を求めて競売で入札し、見事勝利を収めました。彼の死後、コレクションの一部がロンドンのナショナル・ギャラリーなどに寄贈されました。現在、『エウロペの略奪』はロンドンのナショナル・ギャラリーとオタワのカナダ国立美術館で保存されています。

結論

『エウロペの略奪』は、ギリシア神話のロマンとバロックアートの魅力的な要素を融合した作品です。レーニの卓越した技術と豊かな感情表現がこの絵画全体を通じて感じられ、訪れる人々に深い印象を残しています。この作品は、神話を題材にしたバロック絵画の中でも特に際立った存在であり、永遠の愛と運命の物語を語り継いでいます。

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