エキソヌクレアーゼ

エキソヌクレアーゼ（Exonuclease）は、ポリヌクレオチド鎖、すなわちDNAやRNAといった核酸の末端からヌクレオチドを一つずつ順次に取り除く働きを持つ酵素の総称です。この酵素は、核酸を構成するヌクレオチド間のリン酸ジエステル結合を加水分解することによって機能します。これに対し、エンドヌクレアーゼは核酸鎖の内部に位置するリン酸ジエステル結合を切断する酵素であり、エキソヌクレアーゼとはその作用様式において明確に区別されます。

エキソヌクレアーゼは、作用する核酸鎖の末端によって、3'末端から作用する3'→5'エキソヌクレアーゼと、5'末端から作用する5'→3'エキソヌクレアーゼに大別されます。また、RNAの特定の配列であるポリAテールに特異的に作用するものも存在します。これらの酵素は、生物の細胞内で多様な生命現象に関与しており、DNAの複製や修復における校正機能、不要になったRNAの分解（ターンオーバー）、RNA分子の成熟といった過程に不可欠な役割を果たしています。特に、古細菌や真核生物においてRNA分解の主要な経路の一つであるエキソソーム複合体は、主に3'→5'エキソヌクレアーゼから構成されています。

大腸菌におけるエキソヌクレアーゼ

大腸菌には、現在までに多くの種類のエキソヌクレアーゼが見つかっており、それぞれが特定の基質や反応条件、そして細胞内機能を持っています。

エキソヌクレアーゼI: 一本鎖DNAの3'末端から5'方向へヌクレオチドを除去します。ただし、3'末端が修飾されている場合は作用できません。
エキソヌクレアーゼII: DNAポリメラーゼIの持つ、新たに合成されたDNA鎖の誤りを取り除く3'→5'方向への校正（プルーフリーディング）活性を担います。
エキソヌクレアーゼIII: 二本鎖DNAに特異的な3'→5'エキソデオキシリボヌクレアーゼ活性に加え、リボヌクレアーゼ、3'ホスファターゼ、APエンドヌクレアーゼ（エンドヌクレアーゼIIとしても知られる）といった複数の触媒活性を持つ多機能酵素です。
エキソヌクレアーゼIV: オリゴヌクレオチドをより小さな単位であるヌクレオシド一リン酸に分解します。この活性にはマグネシウムイオン(Mg2+)が必要で、比較的高い温度でも機能しますが、その遺伝的な背景はまだ完全には解明されていません。
エキソヌクレアーゼV: 相同組換えという遺伝情報の再配置に関わる重要な多機能酵素です。ATP依存的なDNAヘリカーゼ活性と、一本鎖DNAに対するマグネシウムイオン依存的なエンドヌクレアーゼ活性を併せ持ちます。
エキソヌクレアーゼVI: DNAポリメラーゼIが持つ5'末端から3'方向へ作用するエキソヌクレアーゼ活性です。
エキソヌクレアーゼVII: 一本鎖DNAに対して、5'末端と3'末端の両方から作用することができます。この活性はマグネシウムイオンを必要としません。
エキソヌクレアーゼVIII: 二本鎖DNAの5'末端から3'方向へ作用するエキソヌクレアーゼで、マグネシウムイオン依存的に機能します。

真核生物におけるエキソヌクレアーゼ

真核生物では、エキソヌクレアーゼは特にRNAの代謝において重要な役割を担います。成熟したメッセンジャーRNA（mRNA）が作られる過程では、転写されたばかりのRNA前駆体（pre-mRNA）の3'末端の正確な処理が不可欠です。多くのmRNAの場合、ポリアデニル化部位でいったん内部が切断された後、上流のRNAにはポリアデニル鎖が付加されます。一方、切断部位よりも下流の転写産物は、主に5'→3'エキソヌクレアーゼ（ヒトではXRN2など）によって速やかに分解されていきます。この分解は、RNAポリメラーゼがDNAテンプレートから離れるのを促進し、転写を終結させる「魚雷モデル」として知られています。ポリアデニル化されないヒストンmRNAの場合などでは、異なる機構で3'末端が処理され、下流の分解も他の酵素（例えばCPSF-73が5'→3'エキソヌクレアーゼとして働く可能性）によって行われることがあります。

また、mRNAのターンオーバーに関わるCCR4-NOT複合体も、3'→5'エキソヌクレアーゼ活性を持つCCR4サブユニットを含んでおり、mRNAの分解に関与しています。さらに、リボソームRNA（rRNA）の成熟過程においても、エキソソームやXRN1、XRN2といった複数のエキソヌクレアーゼが、rRNA前駆体の末端を正確に形成するために機能しています。

コロナウイルスにおけるエキソヌクレアーゼ

SARS-CoV-2を含むベータコロナウイルス属のウイルスは、自身のゲノム中にnsp14-ExoNと呼ばれるエキソヌクレアーゼをコードしています。この酵素はウイルスのRNA複製における校正機能を持つと考えられており、ゲノムの安定性を高める一方で、ウイルスの組換え過程にも関与することで、新たな変異株が出現する可能性に関わっていると示唆されています。

エキソヌクレアーゼは、このように原核生物から真核生物、さらにはウイルスに至るまで広く存在し、それぞれの生命体内で核酸の代謝と安定性を維持するために不可欠な役割を担っている酵素群です。

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