エクメーネ

エクメーネ

エクメーネ（独: Ökumene）は、地理学において、人間が恒常的に生活を営んでいる地球表面の領域を指す専門用語です。この概念は、人類が活動の拠点とし、経済的な営みや社会的な交流が継続的に行われている空間を明確に定義しようとするものです。日本語では、「居住空間」「生活空間」「居住地域」といった訳語が用いられることがあります。

人間が定住せず、あるいは一時的な活動しか行わない地域は、アネクメーネと呼ばれ、エクメーネとは対義的な概念として扱われます。

エクメーネには、人類が常に定住している「恒常的エクメーネ」と、研究や資源探査などで一時的に人々が滞在する「一時的エクメーネ」の二つの種類があります。例えば、かつては完全にアネクメーネであった南極大陸も、現在では基地などが設けられ、一時的エクメーネの一例と見なされています。

語源と歴史的背景

「エクメーネ」という言葉は、古代ギリシア語の「オイクーメネー」（οἰκουμένη, oikouménē）に由来します。この語は「人が住んでいる土地」を意味し、古代ギリシア人が自分たちの知っている世界全体を指すのに使用されました。キリスト教における「エキュメニカル」や「エキュメニズム」といった用語も、同じ語源を共有しています。

近代地理学において、この概念を体系的に導入したのがドイツの地理学者アレクサンダー・フォン・フンボルトです。さらに、フリードリヒ・ラッツェルはその代表的な著書『人類地理学』（Anthropogeographie）の中で、エクメーネの範囲やその発展について詳細な考察を展開しました。

エクメーネの範囲と限界

地球表面のうち、エクメーネに含まれるのは主に陸地であり、広大な海洋や湖沼などは基本的に除外されます（ただし、一部に海上での生活を主体とするコミュニティも存在します）。現在、エクメーネは地球の陸地面積の約88%を占めると推定されています。

エクメーネとアネクメーネの境界線は、人間が食料を安定的に生産できる限界とおおむね一致しています。ただし、人間が居住することは可能であっても、農業などの食料生産には適さない土地はズブエクメーネ（Subökumene）として区分されることがあります。

エクメーネの広がりを制限する要因は、主に地理的なものです。この限界は大きく「水平限界」と「高距限界」（垂直限界）に分けられます。

水平限界: 極度の乾燥地域、極度の寒冷地域、極度の湿潤・高温地域などがこれにあたります。これらは、それぞれ「対乾燥限界」「対寒冷限界」「対湿熱限界」として認識されます。
高距限界: 標高が高くなるにつれて気温や気圧、酸素濃度が低下し、居住が困難になる限界です。

1984年時点のデータによると、恒常的エクメーネの北限はカナダ領エルズミア島のアラート（北緯82度31分）、南限はチリ領ナバリノ島のプエルト・ウィリアムズ（南緯54度56分）とされています。また、高距限界は、インドのチベット国境に近いバシシ村の標高5,988メートル地点が最も高い恒常的な居住地として記録されていました。

エクメーネの拡大

エクメーネの基本的な輪郭は、有史以前の時代にほぼ形成されていたと考えられています。しかし、その後もエクメーネは様々な要因によって拡大を続けてきました。主な要因としては、気候変動による水平限界や高距限界の変動、農業技術やインフラ技術の進歩による居住可能地域の拡大、そして人口増加に伴う新たな土地への移住や入植が挙げられます。

具体的な拡大の事例としては、森林や低湿地の開拓、砂漠地帯への灌漑導入などが挙げられます。これらの開発により、かつてアネクメーネであった地域がエクメーネへと編入されてきました。特に大航海時代を経て、それまで文化的・経済的に分断されていた旧大陸と新大陸が結びつき、地球全体が一つの大きなエクメーネとして統合されることとなりました。また、地下資源の発見などが契機となり、本来の居住限界を超える厳しい環境下でも人々が定住する入植地が形成されることもあります。20世紀におけるソビエト連邦の大規模な自然改造事業なども、エクメーネ拡大の一例と見なすことができます。

関連項目

アネクメーネ、人新世、エキュメニズム

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