エゴン・ペトリ

エゴン・ペトリ

（Egon Petri, 1881年3月23日 - 1962年5月27日）

20世紀前半を中心に活躍したドイツ出身の傑出したピアニスト、それがエゴン・ペトリです。卓越した技術と深い音楽性を兼ね備え、特にヨハン・セバスティアン・バッハ、フランツ・リスト、そして師フェルッチョ・ブゾーニの作品の演奏で知られています。彼の生涯は、激動の時代の中でヨーロッパとアメリカ大陸を股にかけたものでした。

ドイツ北部の都市ハノーファーに、オランダ系の両親のもと生まれました。幼少期をドレスデンで過ごし、多感な時期をこの地で送りました。父がヴァイオリン奏者であったことから、幼少期にはヴァイオリンの手ほどきを受けました。その才能は早くから認められ、10代にして名門ドレスデン宮廷楽団の一員として迎えられています。しかし、次第にピアノへの情熱を深めていった彼は、イタリア出身の偉大な作曲家・ピアニストであるフェルッチョ・ブゾーニに師事する機会を得ました。ブゾーニとの出会いはペトリの音楽人生に決定的な影響を与え、彼の演奏スタイルや音楽観の形成に深く関わりました。ブゾーニの教えを受けながら、ペトリはレパートリーの中心にバッハやリスト、そして師ブゾーニ自身の作品を据えるようになります。これらの作曲家の作品における複雑な構造や高度な技術的要求をクリアする彼の演奏は、高い評価を得ました。

第一次世界大戦が勃発すると、ペトリは師ブゾーニに従って中立国であったスイスへと活動の拠点を移します。この時期、彼はブゾーニが進めていたバッハの重要な鍵盤楽曲の校訂作業を手伝うなど、師との共同作業を通じて研鑽を積みました。大戦終結後、1920年代にはドイツの首都ベルリンで後進の指導にあたり、教育者としての才能も発揮し始めます。この頃、特筆すべき出来事として、1923年にはソビエト連邦で初めて演奏した外国人ソリストとして歴史に名を刻みました。これは当時の国際情勢を考えると極めて異例であり、彼の名声と影響力の大きさを物語っています。1927年にはポーランド南部の避暑地、ザコパネに移り住み、演奏活動や教育活動を続けました。

1929年からは、彼の芸術を後世に残すための重要な活動として、録音に積極的に取り組むようになります。これにより、彼の卓越した技術と深い音楽性が収められた演奏が広く知られることとなりました。しかし、ヨーロッパの情勢が再び緊迫し、第二次世界大戦が勃発すると、ナチスの台頭と戦火を避けるため、ペトリはアメリカ合衆国へと逃れることを決断します。新天地アメリカでは、再び教育者としての道を歩みます。ニューヨーク州のコーネル大学や、後にカリフォルニア州オークランドにあるミルズ・カレッジなどで教鞭を執り、多くの学生たちに自らの音楽哲学と技術を伝えました。彼の指導からは、後に国際的に活躍するアール・ワイルドやジョン・オグドンといった著名なピアニストが育っています。

生涯を通じて演奏家として、また教育者として多大な貢献をしたエゴン・ペトリは、1962年5月27日にカリフォルニア州バークリーにて、その波乱に満ちた人生の幕を閉じました。彼の遺した録音や、彼に師事した門下生たちの活動を通じて、その偉大な音楽的遺産は今なお受け継がれています。彼の演奏は、技術的な正確さと知的な深さ、そして豊かな表現力を兼ね備えたものとして、高く評価されています。特にバッハ演奏における構造的な明晰さや、リスト作品における華麗さと内面の表現の両立は、多くの後進の模範となりました。

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