エジプト・シリア戦役

エジプト・シリア戦役: フランスの遠征とその影響

1798年から1801年にかけて展開されたエジプト・シリア戦役は、ナポレオン・ボナパルトの指揮の下、フランス軍がエジプトとシリアに遠征した歴史的な出来事です。しばしば「エジプト遠征」とも呼ばれるこの戦役は、フランスの対外政策や戦略を反映した形となっています。

背景

ナポレオンがエジプト遠征を決意した理由は、フランスの大陸における勢力拡大と海を渡ったイギリスに対する牽制にありました。イギリスはインドに重要な植民地を持っており、エジプトを通じて本国と植民地を結びつけていたため、フランスにとってエジプトの掌握は戦略的に重要でした。この遠征を通じて、イギリスとの連絡を断ち、さらにはインドの植民地争奪に繋げる狙いがありました。

一方、エジプトは300年前からオスマン帝国の支配下にありましたが、その影響力は次第に薄れ、地元の有力者であるマムルークが実質的にエジプトを支配していました。フランスは、このマムルークの圧政からエジプトの民衆を解放する名目で侵攻を決定しました。

戦役の幕開け

1798年7月3日、フランス軍はアブキールの港から上陸し、すぐにアレクサンドリアを占領しました。続いて砂漠を越えてカイロを目指し、7月21日にナイル川のエムバベでマムルーク軍と対峙しました。この戦闘は後に「ピラミッドの戦い」と呼ばれるようになり、フランス軍が数的に優位でないマムルーク軍を圧倒する結果を迎えました。

特に有名なのは、ナポレオンの「兵士諸君、4000年の歴史が見下ろしている」という言葉です。この戦闘はフランス軍にとって重要な勝利となり、8月1日にはイギリス軍のホレーショ・ネルソンがフランスの艦隊を撃滅し、フランス軍の補給路を断ちました。これにより、戦局は次第に厳しさを増しました。

エジプトにおけるフランス軍の統治

フランス軍はアレクサンドリアを占領後、エジプトでの統治を開始しました。彼らは「解放者」を自称し、アラビア語の布告で民衆に宣伝しましたが、実際には反発に遭い、多くのエジプト人が暴動を起こしました。フランス軍は著名な宗教施設にも攻撃を加え、さらなる抗議を招く結果となりました。

また、フランス軍による物資の略奪や社会的摩擦は、エジプトの地元住民との関係を複雑にし、フランスの支配に対する不満が高まる要因となりました。倦怠感が漂う中、フランス軍は過酷な環境に対処し続けなければなりませんでした。

シリアへの進出と撤退

1799年にはフランス軍はシリアへと進出し、ヤッファを占領しましたが、アッカにおける攻略に失敗し、撤退を余儀なくされました。この頃、フランス本国ではイギリスとオーストリアによる攻撃が再開され、ナポレオンはエジプトでの作戦を断念し、帰国を決意しました。彼は少数の側近と共に秘密裏にエジプトを脱出し、その後残された兵士たちは現地の抵抗や疫病に苦しむこととなりました。

1801年には、フランス軍の残余が最終的にイギリスおよびオスマン帝国に降伏し、戦役は幕を閉じます。

学術的な影響

この遠征には167名の科学者や技術者が同行し、エジプトにおける学術調査が行われました。特にロゼッタ・ストーンの発見や、古代エジプトの遺跡調査が重視されました。これらの成果は後に『エジプト誌』としてまとめられ、エジプト学の確立に寄与しました。

ナポレオンのエジプト遠征は、戦争のみならず、学問や文化の交流にも大きな影響を与えた歴史的な出来事です。

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