エタ・ベイカー

エタ・ベイカー：ピードモント・ブルースの巨匠

エタ・ベイカー（Etta Baker、1913年3月31日 – 2006年9月23日）は、アメリカ合衆国ノースカロライナ州出身の、ピードモント・ブルースを代表するギタリスト、そして歌手でした。彼女の音楽は、90年近くにわたり、多くの人々に感動を与え続けました。

生い立ちと音楽との出会い

エタ・ルシール・リード (Etta Lucille Reid) として生まれた彼女は、アフリカ系アメリカ人、インディアン、ヨーロッパ系アメリカ人の血を引いていました。音楽的な才能は幼少の頃から開花し、3歳でギターを手にしました。ギターを教えたのは父ブーン・リード (Boone Reid) で、彼自身も様々な楽器を演奏するピードモント・ブルースの演奏家でした。父からのみ音楽の手ほどきを受け、6弦ギターだけでなく、12弦スティール弦アコースティックギターや5弦バンジョーも自在に操りました。

1916年、家族と共にバージニア州キーズビルへ移住。リード家は8人兄弟（4女4男）という大家族でした。父ブーン・リードは、1910年代から1920年代にかけて、様々な仕事を転々としながら家族を支えました。エタが14歳になる頃には、家族全員でバージニア州南部のタバコ農園で働くようになりました。彼女は第10学年で学校を中退しています。

音楽家としての飛躍

エタ・ベイカーが初めて録音したのは、1956年の夏のことでした。父と共に、当時住んでいたモーガントンに近いノースカロライナ州ブローイング・ロックのコーン家の屋敷を訪れていた際、偶然ポール・クレイトンに出会ったのです。父はクレイトンに、娘の代表曲「One Dime Blues」を聴いてくれるよう頼みました。クレイトンはその演奏に感銘を受け、翌日、テープレコーダーを持参して一家の自宅を訪れ、数曲を録音しました。この偶然の出会いが、彼女の音楽家としてのキャリアを大きく飛躍させるきっかけとなりました。

様々な音楽家との交流と受賞歴

エタ・ベイカーは、ボブ・ディラン、タジ・マハール、ケニー・ウェイン・シェパードなど、数多くの著名な音楽家たちと交流し、自身の音楽的知識を共有しました。彼女の音楽に対する貢献は高く評価され、1989年にはノースカロライナ・アーツ・カウンシルからノースカロライナ・ヘリテッジ賞、1991年には国立芸術基金からNational Heritage Fellowship（日本の人間国宝に相当）を贈られました。さらに、2003年にはノースカロライナ賞を受賞。1982年には姉のコーラ・フィリップス (Cora Phillips) と共に、ノースカロライナ・フォークロア協会 (North Carolina Folklore Society) から、ブラウン＝ハドソン・フォークロア賞 (Brown-Hudson Folklore Award) を贈られています。

晩年と遺産

ベイカーは9人の子供を育てましたが、そのうち一人は1967年にベトナム戦争で戦死。同じ年には夫も亡くしました。息子と夫を失った彼女は、しばらく演奏活動を休止していましたが、やがてブルース音楽に慰めを見出し、再び演奏活動を再開しました。晩年はノースカロライナ州モーガントンに住んでいましたが、心臓発作で倒れた娘を見舞いに訪れていたバージニア州フェアファックスで、93歳でその生涯を閉じました。

エタ・ベイカーの音楽は、ピードモント・ブルースの伝統を現代に伝える貴重な遺産として、今もなお多くの人々に愛され続けています。彼女の演奏は、その卓越した技術と深い感情表現によって、聴く人の心に深く響き、忘れられない感動を与えてくれます。

ディスコグラフィー

1956: Instrumental Music from the Southern Appalachians (Tradition Records; reissued 1997)
1990: One Dime Blues
1998: The North Carolina Banjo Collection, various artists (Rounder)
1999: Railroad Bill
2004: Etta Baker with Taj Mahal (Music Maker 50)
2005: Carolina Breakdown, with Cora Phillips (Music Maker 56)
* 2006: Knoxville Rag, with Kenny Wayne Shepherd

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