エダアシクラゲ

エダアシクラゲ（学名：Cladonema pacificum）は、花クラゲ目に分類される小さなクラゲです。その名前は、特徴的な枝分かれした触手に由来しています。日本の沿岸部に広く分布しており、その生態は多くの生物学者の関心を引いています。

特徴

本種は、クラゲ世代とポリプ世代という、生涯で姿を変える生活環を持ちます。

クラゲ体

成体のクラゲは大変小さく、傘の高さはおよそ3.8ミリメートル、幅は2.9ミリメートル程度ですが、中には傘高が6ミリメートルほどの大型個体も見られます。ゼラチン質は薄く透明で、体の中央にある口柄は黄色い円筒形をしています。口柄の周囲には、8つに分かれた生殖腺が確認できます。口縁からは6本の短い触手が出ています。
放射管は基部で枝分かれするものがあるため、傘の縁に達する放射管の数は合計9本のように見えます。これらの放射管の末端から伸びる触手こそが、本種の名前の由来です。触手の根元は黄色く、途中から左右および腹側にそれぞれ3～4本の褐色の短い枝を出しています。触手の付け根には、物に付着するための付着器と、光を感じる眼点があります。

ポリプ体

ポリプは、基盤上を這うヒドロ根で互いに繋がった群体を作ります。ヒドロ花は高さ約1ミリメートルに立ち上がり、口盤の少し下には4本の頭状触手が輪になって配置されています。クラゲになる前の水母芽は、このヒドロ花の側面に形成されます。

分布と生態

エダアシクラゲは日本各地の沿岸域に生息しています。海中を漂うのではなく、ホンダワラなどの海藻や岩の表面に粘液で付着して過ごすのが主な習性です。ただし、短い距離であれば自力で泳ぐこともできます。このような付着性の生態のため、遊泳性のプランクトン図鑑には掲載されないこともあります。
ポリプ世代は海岸の潮溜まりなどでよく見られ、そこでシオダマリミジンコのような小動物を捕らえて餌としています。

生活環

日本の沿岸では、エダアシクラゲのクラゲは主に春から夏にかけて（概ね4月から7月頃）観察されます。成熟した個体は雌雄異体で、飼育下では明暗周期を利用して容易に産卵を誘発できます。驚くほど多産で、メスは一度に数百個もの卵を放出することがあり、毎日繰り返し産卵する能力も持ちます。受精卵はプラヌラ幼生を経て基盤に定着し、約4日でポリプに変態します。ポリプはヒドロ根を分割することで無性的な増殖も行います。冬季は水温低下によりポリプのヒドロ花が退化し、ヒドロ根の状態で越冬します。春になると再びヒドロ花を発達させ、クラゲ芽を形成して新たなクラゲを放出します。

分類

本種に近縁な種としては、ムツノエダアシクラゲ（Cladonema uchidai）などが知られています。

利害と研究利用

エダアシクラゲは一般的な利害はありませんが、その飼育の容易さや、ブラインシュリンプのみで生活環を完結できることから、実験動物として注目されています。特に、有性生殖の研究に適しており、他のモデル生物と比較して圧倒的に多い産卵数（一度に数百個）と、明暗周期による容易な産卵誘発といった利点があります。これにより、発生や遺伝学研究における有用性が高いと評価されています。また、他の飼育水槽にブラインシュリンプなどを介して意図せず混入・繁殖することがある可能性も指摘されていますが、確定的な情報ではありません。

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