エチオピア航空302便墜落事故

エチオピア航空302便墜落事故

2019年3月10日、エチオピアのボレ国際空港を離陸したエチオピア航空302便が、離陸直後に墜落し、乗員乗客157名全員が死亡するという痛ましい事故が発生しました。この事故は、エチオピア航空史上最悪の航空事故であるとともに、ボーイング737シリーズにとっても大きな悲劇となりました。

事故の概要

事故機は、ボーイング737 MAX 8 型機（機体記号：ET-AVJ）という比較的新しい機体で、2018年11月にエチオピア航空に納入されたばかりでした。この機体は、2017年から引き渡しが始まった最新鋭機でしたが、事故の5ヶ月前にも同型機によるライオン・エア610便墜落事故が発生していました。

エチオピア航空302便は、ボレ国際空港を離陸後、わずか6分でレーダーから消失しました。離陸直後からパイロットは制御面の問題を報告しており、引き返しを要求しましたが、機体はコントロールを失い、墜落に至りました。機体は上昇と降下を繰り返し、墜落前には白い煙を出し、異音を発していたという目撃証言があります。事故現場には大きなクレーターができ、機体は粉々に粉砕され、生存者は一人もいませんでした。

事故原因の究明

事故調査の結果、この事故は、ボーイング737 MAX 8 型機に搭載されていた「操縦特性向上システム (MCAS)」の欠陥が主な原因であることが判明しました。MCASは、機体が失速するのを防ぐためのシステムですが、AOA（迎角）センサーの誤った情報に基づいて、機首を不必要に下げてしまうという問題がありました。この誤作動により、パイロットは機体をコントロールすることができず、墜落に至ったと考えられます。

調査の経過

事故発生後、ブラックボックスが回収され、フランスの航空事故調査局（BEA）で解析が行われました。アメリカの国家運輸安全委員会（NTSB）が調査に参加しなかったのは、ボーイング社に対する不信感があったためとされています。

初期の調査では、パイロットはMCASの異常を認識し、回復操作を試みたものの、機体を制御できなかったことが示唆されました。ボーイングは、MCASの設計変更とパイロット訓練の改訂を行うことを発表しましたが、事故との直接的な関連性を否定しました。

中間報告書では、AOAセンサーの不一致と、MCASによる機首下げが複数回発生していたことが明らかにされました。最終報告書では、MCASの設計上の欠陥、パイロット訓練の不足、そしてボーイング社の安全評価の甘さが指摘されました。

最終報告書の内容

最終報告書では、事故原因を以下の通り特定しました。

誤ったAOA入力によるMCASの繰り返し作動と、その回復不能な起動システムにより、機体が急速に降下したこと。
MCASの設計が単一のAOAセンサーに依存しており、センサーからの誤った入力に対して脆弱だったこと。
ボーイングが、MCASの意図しない作動の可能性を十分に考慮していなかったこと。
パイロット向けのシミュレーター訓練でMCASシステムを対象としていなかったこと。
* MCASの操作に関する手順を、訓練やマニュアルで乗員に提供していなかったこと。

事故の犠牲者

この事故では、乗員8名と乗客149名の合計157名が亡くなりました。犠牲者には、国連職員や学者、学生など、様々な国籍の人々が含まれていました。

事故の影響

この事故の影響は大きく、ボーイング737 MAX型機の安全性が世界的に疑問視されるようになりました。各国は同型機の運航を一時停止し、ボーイング社は設計変更とパイロット訓練の強化を余儀なくされました。エチオピア航空は、発注済みの同型機の注文をキャンセルし、ボーイング社の受注数は激減しました。

この事故は、航空業界における安全管理の重要性を再認識させ、今後の航空機の設計や安全基準に大きな影響を与えることとなりました。

映像作品

この事故を題材にしたドキュメンタリー『地に落ちた信頼: ボーイング737MAX墜落事故』が制作されました。

もう一度検索