エデンの東/慕情

「エデンの東 / 慕情」 - ジャッキー吉川とブルー・コメッツ

ジャッキー吉川とブルー・コメッツが1971年7月25日に世に送り出したシングルは、「エデンの東」と「慕情」という二つのタイトルを冠した両A面盤として発表されました。この二曲は、シングル発売に先行すること約9ヶ月、具体的には1970年10月10日に発売された彼らのアルバム『ポピュラーヒット25年史 上巻』に初めて収録されており、このアルバム音源が後にシングルとして改めて多くの音楽愛好家の手に届けられることになったのです。

収録楽曲解説

本作に収められた二つの楽曲は、いずれも不朽の名作として知られる同名映画のテーマ曲をカヴァーしたものです。編曲は両曲とも、多才なアレンジャーとして名高い森岡賢一郎が手掛けています。

A面1: エデンの東

作曲: レナード・ローゼンマン
編曲: 森岡賢一郎

主要な表題曲の一つである「エデンの東」は、1955年公開の映画『エデンの東』の感動的なテーマ曲をインストゥルメンタル（器楽曲）として再解釈したものです。ブルー・コメッツによるこのヴァージョンでは、グループの卓越した演奏能力が存分に発揮されています。特に、メンバーそれぞれが特定の楽器でフィーチャーされている点が特徴的です。井上忠夫は情感豊かなテナー・サックスの旋律を奏で、楽曲の中心的なメロディラインを彩ります。三原綱木は繊細かつ表現力豊かなギターソロやオブリガートを担当し、楽曲に深みを与えています。また、小田啓義は美しいピアノパートで楽曲の抒情性を高めています。これらのメンバーによるソロやアンサンブルが見事に組み合わさり、原曲の持つドラマチックな雰囲気を、ブルー・コメッツ独自の色合いで表現しています。このインストゥルメンタルカヴァーは、彼らの演奏技術の高さをリスナーに強く印象づける作品となっています。

A面2: 慕情

作詞: ポール・フランシス・ウエブスター
作曲: サミー・フェイン
編曲: 森岡賢一郎

もう一つの表題曲である「慕情」は、1955年公開の映画『慕情』（原題: Love Is a Many-Splendored Thing*）のテーマ曲をカヴァーしたものです。この楽曲は、アメリカのボーカルグループ、ザ・フォー・エイセスの歌唱によるヴァージョンが特に有名であり、ブルー・コメッツによるカヴァーもこのフォー・エイセスのヴァージョンを下敷きにしていると考えられます。この「慕情」のカヴァーにおける最も際立った特徴は、歌唱が英語で行われている点です。ブルー・コメッツのメンバーがリードボーカルを担当したのか、あるいは外部のボーカリストを起用したのかは、インプット情報からは断定できませんが、彼ら自身がバックコーラスを務めていることは明記されています。彼らのハーモニーが、原曲の持つロマンチックで切ないメロディラインを優しく包み込んでいます。作詞はポール・フランシス・ウエブスター、作曲はサミー・フェインという、著名なソングライターコンビによって生み出されたこの名曲は、ブルー・コメッツによって新たな魅力をもって届けられました。日本語詞で歌われることが多い彼らのレパートリーの中で、英語での歌唱に挑戦し、さらに自らコーラスワークを行うという試みは、彼らの音楽的な挑戦心と多様性を示すものと言えるでしょう。

• ---

このように、「エデンの東 / 慕情」シングルは、ジャッキー吉川とブルー・コメッツが往年の名画のテーマ曲をカヴァーすることで、彼らの演奏力、アレンジ能力、そして多様な音楽スタイルへの取り組みを示す重要な作品です。インストゥルメンタルで各メンバーの妙技が光る「エデンの東」と、英語歌唱とセルフコーラスで新しい一面を見せた「慕情」という、対照的ながらも映画音楽という共通項を持つ二曲をカップリングすることで、このシングルは当時の彼らの音楽的な幅広さをリスナーに伝えることに成功しました。アルバムからのシングルカットという経緯も踏まえれば、これらの楽曲が彼らのレパートリーの中でも特に聴衆に届けたいと意図された作品群であったことが伺えます。映画史に残るメロディが、日本のトップグループの手によってどのように生まれ変わったのかを知る上で、非常に価値のある一枚と言えます。

もう一度検索