エドワード・ギボン

エドワード・ギボン：ローマ帝国衰亡史の著者とその波乱に満ちた生涯

エドワード・ギボン（1737年-1794年）は、イギリスを代表する歴史家であり、『ローマ帝国衰亡史』の著者として知られています。洗練された文体と皮肉を交えたユーモアで知られる彼の作品は、今日でも高い評価を得ており、ローマ帝国の歴史を理解する上で欠かせないものとなっています。しかし、ギボンの生涯は、単なる歴史家のそれとは程遠い、波乱に満ちたものでした。

裕福な家庭と不安定な幼少期

ロンドン近郊で比較的裕福な家庭に生まれたギボンでしたが、彼の幼少期は決して平穏なものではありませんでした。5人の兄弟姉妹は全員夭折しており、母親も彼が幼い頃に亡くしました。健康面でも弱かった彼は、伯母の元で育てられました。

オックスフォード大学とスイスでの転機

14歳でオックスフォード大学モードリン・カレッジに入学したギボンは、そこで神学を学び、カトリックに改宗します。当時のイギリス社会においてカトリック教徒であることは、社会的な地位や将来に大きな影響を与えました。父親の強い反対を受け、ギボンは大学を退学させられ、スイスのローザンヌへと送られます。ローザンヌでプロテスタントの牧師であるパヴィリアードの指導の下、彼は新たな教育を受け、宗教観を大きく変え、以後宗教を冷めた目で捉えるようになりました。このスイスでの経験は、ギボンのその後の人生に大きな影響を与えたと言われています。彼はこの経験について、自身の教育の成果は、ローザンヌへの「幸運な追放」によってもたらされたものだと記しています。

学問への没頭とロマンス

ローザンヌでの生活の中で、ギボンはパスカル、ベール、ロック、プーフェンドルフ、グロティウスといった思想家たちの作品を研究し、幅広い知識を身につけていきました。また、この頃には、2人の女性とのロマンスも経験しています。しかし、父親の反対や、女性側の事情により、これらの恋愛は実らなかったようです。

ローマへの旅と『ローマ帝国衰亡史』の着想

7年戦争が終結した後、ギボンはローマを訪れます。古代ローマの遺跡を目の当たりにした彼は、ローマ帝国の興亡に興味を持ち始め、『ローマ帝国衰亡史』の構想を練り始めました。

執筆活動と政治家としての顔

父親の死後、十分な遺産を相続したギボンは、ロンドンで執筆活動に専念します。サミュエル・ジョンソンといった著名な文人たちとの交流を通して、彼は自身の文章力を磨いていきました。また、彼は政治にも関与し、ホイッグ党の庶民院議員を務めました。

『ローマ帝国衰亡史』の出版とその後

1776年から1788年にかけて、ギボンは『ローマ帝国衰亡史』を出版します。この壮大な歴史書は、その完成度の高さから、世界中で高く評価され、今日に至るまで読み継がれています。晩年は王立協会フェローにも選出され、名誉ある地位に就きました。没後には『ギボン自伝』が出版され、彼の生涯がより深く知られるようになりました。

ギボン研究

近年では、ギボンの生涯や作品に関する研究も盛んに行われています。彼の宗教観や政治思想、そして『ローマ帝国衰亡史』における歴史記述の方法など、多角的な視点からの研究が、ギボンという人物像をより立体的に浮かび上がらせています。

まとめ

エドワード・ギボンは、単なる歴史家という枠を超えた、複雑で魅力的な人物でした。彼の生涯は、宗教的葛藤、学問への飽くなき探究心、政治活動、そして恋愛など、様々な要素が複雑に絡み合ったドラマチックなものでした。そして、その経験すべてが、『ローマ帝国衰亡史』という不朽の名作を生み出す礎となったと言えるでしょう。

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