エドワード・ドノヴァン

エドワード・ドノヴァン：博物学への情熱と苦悩の生涯

エドワード・ドノヴァン (1768-1837) は、アイルランド出身のイギリス人博物学者、博物画家、そして著述家でした。熱心な博物標本収集家として知られ、数々の博物書を出版したことで、その名を後世に残しました。本稿では、彼の生涯と業績、そして波乱に満ちた人生について探ります。

博物学への道

Aイルランドのコークに生まれたドノヴァンは、幼い頃から自然への強い関心を抱いていました。彼は熱心に標本を収集し、探検航海から持ち帰られた貴重な標本を積極的にオークションで買い集めました。ロンドン・リンネ協会やウェルネリアン自然史協会会員となり、ロンドンの豊かなコレクションや図書館を利用して研究を深めました。

当時、個人博物館が盛んに設立されていた時代背景の中、ドノヴァンも1807年にロンドンに「ロンドン博物館および自然史研究所」を設立しました。そこには、数百点にも及ぶ鳥類、哺乳類、爬虫類、魚類、軟体動物、昆虫、サンゴ、その他の無脊椎動物、そして植物標本が展示され、多くの研究者や愛好家を引きつけました。

出版活動と博物書の功績

ドノヴァンは博物学に関する数々の著作を出版し、大きな成功を収めました。代表的な著書として、『イギリス鳥類自然誌』（1792-97）、『イギリス昆虫自然誌』（1792-1813）、『イギリス魚類自然誌』（1802-08）などがあります。さらに、『南ウェールズとモンマスシャーの記述的遊覧』（1805）や『フローラの美』（1789-90）といった作品も発表しています。

また、彼はエイブラハム・リーズ編集の『サイクロペディア』に貝類や昆虫に関する記事と図版を提供するなど、百科事典にも貢献しました。さらに、自身で描いた植物画の私家版も作成するなど、多岐にわたる活動を行っていました。

とりわけ有名なのは、『中国昆虫自然誌概説』（1798）、『インド昆虫自然誌概説』（1800）、『ニューホランドの昆虫』（1805）です。『ニューホランドの昆虫』はオーストラリアの昆虫に関する最初の著作であり、ジョセフ・バンクスやジェームズ・クックの探検航海に同行したウィリアム・ベイリーが収集した標本を基に作成されました。ドノヴァンは、図版の下書きからエッチング、手彩色まで、すべての工程を自身で行い、蝶の図版には珍しい植物も一緒に描くなど、細やかな描写で知られています。『中国昆虫自然誌概説』は、ジョージ・マカートニー使節団から提供された標本と資料に基づいています。一方、『インド昆虫自然誌概説』の資料の入手経路は不明ですが、インドの昆虫に関する最初の博物書として貴重な資料となっています。

晩年と経済的苦境

高価な標本の購入や、出版社とのトラブル、そしてナポレオン戦争後のイギリス経済の悪化などが原因で、ドノヴァンは多額の借金を負うことになりました。1817年には博物館を閉鎖し、1818年にはコレクションをオークションに出さざるを得なくなりました。出版活動は続けましたが、経済状況は改善せず、1833年には出版社を相手取って訴訟を起こす事態にまで発展しました。しかし、訴訟も失敗に終わり、彼は貧困の中で生涯を終えました。

ドノヴァンは、優れた博物画家としての才能と、熱心な収集家としての情熱、そして出版者としての成功を収めました。しかし同時に、経済的な苦境に悩まされ、晩年は悲惨な状況にありました。彼の生涯は、博物学への情熱と現実の厳しさの両面を私たちに示す、一つの物語と言えるでしょう。

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