エナン (帽子)

エナン(Hennin)とは

エナン（フランス語: [ˈenɛ̃], 英語: [ˈhɛnᵻn]）は、中世ヨーロッパにおいて高貴な女性が身につけていた、円錐形または尖塔のような独特の形状を持つ頭飾りです。特にレバノン、シリア、ブルゴーニュ、フランスといった地域で広く用いられていましたが、イギリスの宮廷やヨーロッパ北部のハンガリー、ポーランドなどでも着用されることがありました。しかし、興味深いことに、イタリアではエナンに関する記録はほとんど見つかっていません。

エナンの歴史と形状

「hennin」という言葉が中世ヨーロッパにおいて具体的にどのような形状の頭飾りを指していたのかは、明確には分かっていません。しかし、1428年のフランスの記録に「エナン」という言葉が登場しており、この時点ではまだ完全な円錐形ではなかったと考えられています。イギリスの文献にこの言葉が現れるのは19世紀以降であるため、一部の研究では、この言葉を当時の別の頭飾りを指すものとして解釈しています。

エナンが服飾史に登場するのは1430年頃からで、特に1450年以降にその存在が顕著になります。形状は、円錐の先が尖っているものと、先端が切り取られたように平らなものがありました。当初は貴族の子女のみが着用していましたが、次第に一般にも普及し、特に先端が平らなタイプが広く用いられるようになりました。エナンの高さは通常30cmから45cm程度でしたが、資料によっては80cmと比較的高いものも見られます。

エナンの構成要素と着用方法

エナンには通常、「ヴェール」、正式には「コアントワーゼ」(フランス語: cointoise)と呼ばれるものが付属しています。ヴェールは帽子の先から女性の肩まで垂らされることが多く、場合によっては地面まで届くほど長いものもありました。また、ヴェールを帽子の先から顔にかかるように覆うスタイルも見られました。

エナンは、後ろへ斜めにずらして着用するのが一般的でした。素材は綿糸や針金などの軽いものが使用され、その上に薄い織り地が貼られていましたが、具体的な構造についてはまだ不明な点が多く残されています。フランスのコロネットを思わせる、眉の一部や左右どちらかの肩にかかる布の装飾が施されたエナンもよく見られます。また、額には短い装飾バンドやリボンが付いていることが多く、これは帽子の位置を固定し、風などで動かないようにするための工夫と考えられています。

当時の女性たちは、額を広く見せるために生え際の毛を抜いたり剃ったりすることが流行していました。髪は頭の形に沿ってきつくまとめられ、通常は帽子の中に完全に隠されていました。ヴェールは片側を髪に結び付け、反対側を円錐の穴から引き出すようにして固定していたと考えられますが、エナンの後ろで長い髪を結ばずに垂らしている肖像画も存在します。

エナンの現代におけるイメージ

今日では、エナンはおとぎ話に登場する王妃が身につける典型的な衣装の一つとして広く認識されています。装飾写本に描かれる王妃や女王は、つばの付いた小さな王冠や、エナンの先端に王冠を載せた姿で描かれることがよくあります。例えば、ブルゴーニュ公国の女公マーガレット・オブ・ヨークが1468年の結婚式典で身につけた小さな王冠がその典型的な例です（この王冠はアーヘン大聖堂の宝物館に収蔵されています）。

エナンの定義の多様性

服飾史を扱った書籍によって、「エナン」という言葉が指す頭飾りの形状は必ずしも一致していません。一般的には、尖塔形や円錐形、または先端が切り取られた（植木鉢のような）形の帽子をエナンと呼ぶことが多いですが、15世紀初頭のハート形で中心が開いた筒状の布や、15世紀半ばのドーム形に頭を覆う布もエナンと呼ばれることがあります。また、クリスティーヌ・ド・ピザンの肖像画に描かれているような、二股に分かれた頭飾りもエナンの一種として扱われることがあります。帽子の素材は白い布が一般的でしたが、時代が下るにつれて、貴族の女性たちは透き通るようなヴェールから鮮やかな織り地をのぞかせるような帽子をかぶるようになりました。角の形に結った髪の上にウィンプルを被るスタイルもエナンの一種として見られます。

エナンに関する記録

アンゲラン・ドゥ・モンストルレの年代記には、1428年にエナンという言葉の初期の使用例と思われる記述があります。厳格なカルメル会修道士トマスが、華美な頭飾りに憤慨し、「くだらないやり方で頭を飾り付け、そんな贅沢な格好をするために大金を費やしている」として、街の少年たちにエナンをつけた女性を追いかけさせ、それを剥ぎ取らせて「エナンめ！」と叫ばせたというエピソードが記されています。彼は贖宥状を発行してまでこの乱暴を奨励しましたが、中世の文書によく見られるように、「Hennin」という語形がどのように成立したのかについては手がかりがありません。図像資料から判断すると、当時の「エナン」はまだ円錐形ではなく、その形状になるのはもう少し後の時代だったと考えられます。カタルーニャの詩人ガブリエル・モーゲルの作品には、当時マヨルカの女性の間で流行していた「高さのある奇形の帽子」を揶揄する内容が残されています。

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