クリスティーヌ・ド・ピザン

クリスティーヌ・ド・ピザン：ヨーロッパ初の女性職業作家

クリスティーヌ・ド・ピザン（1364年 - 1430年）は、中世フランスのパリ宮廷を中心に活躍した、ヴェネツィア出身の詩人、文学者です。彼女はヨーロッパ初の女性職業作家、フランス文学最初の女性職業文筆家として知られています。

生涯

1364年、クリスティーナとしてヴェネツィアに生まれました。父トンマーゾ・ディ・ベンヴェヌート・ダ・ピッツァーノは医師、占星術師としてフランス王シャルル5世の宮廷に仕えており、1368年に一家はフランスに移住。クリスティーヌは父から教育を受け、シャルル5世の宮廷図書館で豊富な知識を吸収しました。この図書館には、アリストテレスをはじめとする古典古代の文献や、ペトラルカなどの同時代文献のフランス語訳が収蔵されており、当時のヨーロッパで最も充実した施設の一つでした。

1380年に結婚しましたが、父親と夫が相次いで死去し、20代半ばで3人の子供と母、姪を養うことになります。生活のため、手稿の清書者として働き始め、恋愛詩の執筆を通じて文筆家としての道を歩み始めました。当時のフランスでは女性が著述を公に発表することは珍しく、クリスティーヌは注目を集めました。

1401年から1402年の文芸論争では、『薔薇物語』をめぐり女性蔑視的な表現に反論し、その名声を確立しました。その後、詩作から散文へと移行し、女性の地位向上に尽力。政治にも影響を及ぼし、平和の必要性を訴え、王政改革議論にも参加しました。

百年戦争が勃発すると修道院に隠遁し、1429年に最後の詩『ジャンヌ・ダルク讃』を刊行した翌年に亡くなりました。

作品と活動

クリスティーヌは、女性の権利擁護と地位向上に情熱を注ぎました。代表作として、『愛の神への書簡』、『薔薇のことば』、『女の都』などが挙げられます。

愛の神への書簡 (1399): 『薔薇物語』の続編における女性蔑視的な表現に対抗し、女性擁護の立場を表明しました。
薔薇のことば (1402): 同様に『薔薇物語』の続編を批判し、女性の尊厳を訴えました。
女の都 (1405): 女性の「理性」と「公正さ」が統治する理想郷を描き、女性による女性のための最初期の著作として評価されています。ボッカッチョやダンテの作品から着想を得たとされます。
三つの徳性の書 (1405): 婦人向けの指南書であり、『女の都』に比べると保守的な内容ですが、男性にも人気を博し、広く翻訳されました。
賢明王シャルル5世の業績の数々と善行をめぐる書 (1404): シャルル5世の伝記であり、同時代文献として貴重な史料となっています。
戦争と軍事技術の書 (1410): 軍からの委嘱で書かれた軍事教本であり、実際に軍隊で使用されました。
* ジャンヌ・ダルク頌 (1429): ジャンヌ・ダルクを題材とした詩であり、ジャンヌ・ダルク存命中に刊行された唯一の書物として知られています。

彼女は、著作を通じてジェンダーの擁護を訴え、反女性的な姿勢に立ち向かいました。政治、社会問題をテーマとした多岐にわたる作品は、当時の社会に大きな影響を与えました。

影響と評価

クリスティーヌ・ド・ピザンは、ヨーロッパにおける女性解放思想の先駆者として、また、中世の知識人として、高く評価されています。彼女の作品は、現代においても、ジェンダー、政治、文化に関する重要な示唆を与えてくれます。

彼女の功績は、単に文学的な才能に留まらず、社会における女性の役割を問い直し、地位向上に貢献した点にあります。クリスティーヌ・ド・ピザンは、まさに時代を先駆けた女性であり、その思想と行動は、後世の女性たちに大きな勇気を与え続けています。

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