エノー伯

エノー伯とは

エノー伯（フランス語: comté de Hainaut）は、中世ネーデルラントに存在したエノー伯領の領主の称号です。現在のベルギー南西部からフランス北部にあたる地域を支配していました。その歴史は9世紀に始まり、様々な家系がエノー伯の地位を継承し、中世ヨーロッパの歴史において重要な役割を果たしました。

歴代エノー伯の変遷

エノー伯の歴史は、複数の家系による支配の変遷によって特徴づけられます。以下にその主な流れを解説します。

初期のエノー伯

アンゲラン1世（870年 - 880年）
レニエ1世（880年 - 898年）- レニエ家
シガール（898年 - 920年）
アンゲラン2世（920年 - 925年）
レニエ2世（925年 - 932年）
レニエ3世（940年頃 - 958年）

初期のエノー伯は、主にレニエ家が支配しました。この時代は、フランク王国の分裂と地方領主の台頭が顕著な時期であり、エノー伯もその中で勢力を拡大しました。

中期の支配者たち

ゴドフロワ1世（958年 - 964年）- 下ロートリンゲン副公（959年 - 964年）
リシェ・ド・モンス（964年 - 973年）- 下ロートリンゲン副公（964年 - 973年）
ルノー・ド・モンス（973年）
レニエ4世（973年 - 974年）
ゴドフロワ2世（974年 - 998年）- アルデンヌ家、ヴェルダン伯ゴットフリート1世
レニエ4世（復位）（998年 - 1013年）
レニエ5世（1013年 - 1039年）
エルマン（1039年 - 1051年）

この時期には、レニエ家による支配が一時的に中断し、他の貴族がエノー伯の地位を担いました。しかし、再びレニエ家が勢力を取り戻し、伯位を継承しました。

フランドル家による支配

ボードゥアン1世（1051年 - 1070年）
アルヌール（1070年 - 1071年）
ボードゥアン2世（1071年 - 1098年）
ボードゥアン3世（1098年 - 1120年）
ボードゥアン4世（1120年 - 1171年）
ボードゥアン5世（1171年 - 1195年）
ボードゥアン6世（1195年 - 1205年）
ジャンヌ（1205年 - 1244年）
マルグリット1世（1244年 - 1246年、1257年 - 1280年）

11世紀には、フランドル伯家がエノー伯の地位を獲得しました。フランドル家による支配は長期にわたり、エノー伯領は安定した時代を迎えました。しかし、相続問題により、フランドル家による支配は終わりを告げました。

アヴェーヌ家とその他の家系

ジャン1世（1246年 - 1257年）- アヴェーヌ家
ジャン2世（1280年 - 1304年）
ギヨーム1世（1304年 - 1337年）
ギヨーム2世（1337年 - 1345年）
マルグリット2世（1345年 - 1356年）
神聖ローマ皇帝ルートヴィヒ4世と共同統治（1345年 - 1347年）
ギヨーム3世（1356年 - 1389年）- ヴィッテルスバック家（バヴィエール家）
アルベール1世（1389年 - 1404年）
ギヨーム4世（1404年 - 1417年）
ジャクリーヌ（1417年 - 1433年）

13世紀以降は、アヴェーヌ家が支配し、その後、神聖ローマ皇帝との共同統治やヴィッテルスバック家による支配がありました。この時期は、エノー伯領が様々な権力構造の影響を受けた時代でした。

ブルゴーニュ家とハプスブルク家

フィリップ1世（1433年 - 1467年）- ヴァロワ＝ブルゴーニュ家
シャルル1世（1467年 - 1477年）
マリー1世（1477年 - 1482年）
フィリップ2世（1482年 - 1506年）- アブスブール家
シャルル1世（1506年 - 1555年）
フィリップ3世（1555年 - 1598年）
イザベル1世（1598年 - 1621年）- アルベール2世と共同統治
フィリップ4世（1621年 - 1665年）
シャルル3世（1665年 - 1700年）

ブルゴーニュ公国を経てハプスブルク家の支配下に入り、エノー伯領はヨーロッパの政治情勢に大きく左右されることになりました。ハプスブルク家は広大な領土を統治し、エノー伯領はその一部として重要な役割を果たしました。

ブルボン家とハプスブルク家、そして終焉

フィリップ5世（1700年 - 1710年）- ブルボン＝アンジュー家
シャルル4世（1711年 - 1740年）- アブスブール家
マリー2世（1740年 - 1780年）
ジョゼフ1世（1780年 - 1789年）- アブスブール＝ロレーヌ家
レオポルド1世（1790年 - 1792年）

18世紀には、ブルボン家、ハプスブルク家による支配が続きました。フランス革命とナポレオン戦争の影響により、エノー伯領は次第に解体され、その歴史は終焉を迎えました。

近代の称号

レオポルド2世（1859年 - 1869年）- サクス＝コブール・エ・ゴータ家/ベルジック家
ボードゥアン7世（1930年 - 1934年）
エリザベート（2001年）

近代には、ベルギー王室が名目的な称号としてエノー伯の称号を受け継ぎましたが、実質的な意味は失われました。

関連項目

レニエ家
バイエルン大公
ブラバント公
フランドル伯
ブルゴーニュ公一覧
ホラント伯
リンブルクの君主一覧
ルクセンブルク君主一覧


エノー伯の歴史は、中世ヨーロッパにおける領主支配と、その変遷を理解する上で重要な要素です。様々な家系による支配を通して、この地域の政治、経済、文化が形成されてきたことが伺えます。

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