エビヅル

エビヅル（蝦蔓・蘡薁）

エビヅル（学名: Vitis ficifolia）は、ブドウ科ブドウ属に属するつる性の落葉木本です。雌雄異株であるのが特徴です。

名称の由来

和名のエビヅルは、つる性の植物であり、その実がエビの目に似ていることに由来します。古くはヤマブドウとともに「エビカズラ」とも呼ばれていました。「エビ」はブドウの古名です。ただし、中国で「蘡薁」と呼ばれるものは、Vitis adstricta Hance という別の野生ブドウを指します。学名としては Vitis ficifolia が用いられることが多いですが、このタイプ標本は中国の桑葉葡萄につけられたものであり、形態的な違いも指摘されています。

分布と生育環境

エビヅルは、日本、朝鮮半島、中国といった東アジア地域に分布しています。日本では、本州、四国、九州で見られ、山地や丘陵地によく生育しています。

特徴

落葉性のつる植物で、巻きひげを使って他の木に絡みつきながら成長します。巻きひげは、茎に対して葉と対生する形で生え、2節ごとに現れて3節目で消失するという特徴的なつき方をします。葉は葉柄を持ち、扁卵形で長さは5 - 8cm程度。3 - 5つに裂け、葉の裏側にはクモ毛と呼ばれる毛があります。葉の先が丸みを帯びているのも特徴の一つです。秋には赤色から橙色に紅葉しますが、比較的落ち着いた色合いです。

花期は6 - 8月で、雌雄異株です。花序は総状円錐花序で、長さは6 - 12cmになります。花は小さく、雄花、雌花ともに黄緑色で、花序に密集して咲きます。

秋には直径5 - 6mmの果実がブドウの房状に実り、黒紫色に熟します。甘酸っぱい味がし、食用にもなりますが、果汁には独特の青臭いにおいがあるため、評価は分かれるようです。花は新梢が伸びると何度も咲くため、同じ株に様々な段階の果実が見られることがあります。

変種

エビヅルには、いくつかの変種が存在します。

シチトウエビヅル (Vitis ficifolia Bunge var. izu－insularis (Tuyama) H.Hara): 葉が大きく、3つに浅く裂けて先端が尖るのが特徴。伊豆七島に分布しています。
キクバエビヅル (Vitis ficifolia Bunge var. sinuata Hara): 本州南部、四国、九州に分布。葉の切れ込みが深いのが特徴です。
* リュウキュウガネブ (Vitis ficifolia Bunge var. ganebu Hatus.): 八重山、琉球、奄美諸島、トカラ列島に自生。葉に切れ込みがありません。リュウキュウガネブは、エビヅルと同一種とする見解もあります。また、シチトウエビヅルと葉の形が似ているため、同一種とすべきという意見もありますが、リュウキュウガネブは他のエビヅル近縁種とは異なり、芽に休眠性がないなど生態的な違いが見られます。近年では、リュウキュウガネブの果皮に含まれるアントシアニンの種類と量が多いことから、機能性に着目した研究も進められています。「ガネブ」は九州地方の方言でブドウの意味です。

対馬に分布するケナシエビヅルは「エビヅル」という名前が付いていますが、Vitis austrokoreana Hatusimaという学名が与えられており、エビヅルとは別種とされていますが、詳しいことはまだよく分かっていません。

利用

エビヅルの果実は生で食べたり、ジャムやジュースに加工して利用できます。また、葉を乾燥させて、葉の裏にあるクモ毛をモグサの代わりに使用することもあります。最近では、リュウキュウガネブの葉から抽出したエキスを含有した化粧水も販売されています。葉エキスの主成分はレスベラトロールです。一部地域では、エビヅルの実を入浴剤として利用する習慣もあります。

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