エフゲニー・ムラヴィンスキー

エフゲニー・ムラヴィンスキー：不屈の魂が奏でる音楽

エフゲニー・アレクサンドロヴィチ・ムラヴィンスキー（1903年6月4日 - 1988年1月19日）は、20世紀におけるソ連・ロシアを代表する指揮者の一人です。彼の音楽は、その厳格さと情熱、そして完璧主義によって、世界中の聴衆を魅了し続けました。

生涯

ムラヴィンスキーは、帝政ロシア時代のサンクトペテルブルクで、貴族の家庭に生まれました。幼少期から音楽に親しみ、ピアノを学びましたが、ロシア革命によって生活は一変。一家は財産を没収され、困窮生活を強いられます。生活費を稼ぐためにマリインスキー劇場で働きながら、ペトログラード大学で生物学を専攻しますが、音楽への情熱を捨てきれず、レニングラード音楽院で作曲と指揮を学びました。

1931年に音楽院を卒業後、マリインスキー劇場で指揮者としてのキャリアをスタートさせ、1938年には全ソ指揮者コンクールで優勝。同年、レニングラード・フィルハーモニー交響楽団の常任指揮者に就任し、以後50年間にわたりその地位に君臨しました。

独ソ戦中は、オーケストラと共にシベリアへ疎開し、慰問演奏などで精力的に活動。戦後、プラハの春音楽祭への出演を機に海外公演を開始し、その名声は西側諸国にも広まりました。

1988年、レニングラードで84年の生涯を閉じましたが、彼の残した録音や映像は、今もなお多くの人々に感動を与え続けています。

レニングラード・フィルとの蜜月

ムラヴィンスキーは、レニングラード・フィルハーモニー交響楽団を世界最高峰のオーケストラへと育て上げました。彼の厳格なリハーサルは伝説的で、妥協を許さない完璧主義を徹底。楽器ごとの練習を重視し、楽団員の猛烈な反発を受けながらも、そのレベルを飛躍的に向上させました。

ムラヴィンスキーとレニングラード・フィルの演奏は、トスカニーニを彷彿とさせる厳密なスコア解釈と、高度なアンサンブルによって、消え入りそうなピアニッシモから雷鳴のようなフォルティッシモまで、一糸乱れぬ演奏を実現しました。

ソビエト体制への反骨

ムラヴィンスキーは、ソビエト共産党員になることはありませんでした。アレクサンドル・ソルジェニーツィンへの弾劾決議文への署名を拒否したり、外国からの楽器購入を政府に追及された際に反論するなど、体制に対して毅然とした態度を取り続けました。

ニューヨーク公演でレニングラード・フィルの団員が亡命騒ぎを起こした際には、「（私の楽団から逃げたのではなく）あなたの党から逃げたのだ」と言い放ったというエピソードも残っています。

日本との絆

ムラヴィンスキーは、1973年に初来日を果たし、以後1975年、1977年、1979年と、合計4回の来日公演を行いました。当初、日本への訪問を快く思っていなかったムラヴィンスキーですが、日本の文化や習慣に触れるうちに強い好感を抱き、「はじめ、文化果てる国に行くのだと思ったが、来日したら、ロシアのほうが最果てだと思った」とのコメントを残しています。

広島の厳島神社を訪れた際には、「日本は11世紀からの文化を残していて素晴らしい。ロシアは革命で古い教会や貴族の屋敷、美しいイコンを破壊してしまった。教養のない政府の国は滅ぶだろう」と語ったと伝えられています。

代表的なレパートリー

ムラヴィンスキーは、ショスタコーヴィチ、チャイコフスキー、ベートーヴェン、ブラームスなど、幅広いレパートリーを持っていましたが、晩年になるにつれ、自身の得意な演目に限定していくようになりました。

特に、ショスタコーヴィチの交響曲第5番は、ムラヴィンスキーが最も多く演奏した曲目であり、数多くの録音が残されています。また、チャイコフスキーの交響曲第4番、第5番、第6番も、ムラヴィンスキーの代表的なレパートリーとして知られています。

音楽の遺産

エフゲニー・ムラヴィンスキーは、20世紀を代表する指揮者の一人として、その音楽は今もなお多くの人々に感動を与え続けています。彼の厳格なリハーサルと妥協を許さない音楽への姿勢は、世界中の音楽家や聴衆に深い感銘を与え、今なお伝説として語り継がれています。

彼の残した録音や映像は、音楽史における貴重な遺産として、これからも大切にされていくことでしょう。

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