エミール・ワルトトイフェル

エミール・ワルトトイフェル：フランスのワルツ王

エミール・ワルトトイフェル（Émile Waldteufel, 1837年12月9日 - 1915年2月12日）は、19世紀後半のフランスで活躍した作曲家です。彼は、ワルツ、ポルカなど、主にダンス音楽の分野で才能を発揮し、特にワルツ『スケートをする人々』や『女学生』は、今日でも広く親しまれています。その人気から、ワルツ王ヨハン・シュトラウス2世にならって「フランスのヨハン・シュトラウス」「フランスのワルツ王」とも呼ばれました。

生涯

ワルトトイフェルは、ストラスブールでアルザス地方のユダヤ系の家庭に生まれました。アルザスは当時ドイツ語圏であり、彼の家系もドイツ系であったと考えられています。一族は音楽家として知られ、父はオーケストラの指揮者、兄も音楽家でした。一家は兄の音楽院入学を機にパリへ移住し、エミールはそこで生涯を過ごすことになります。

1853年から1857年までパリ音楽院でピアノを学び、マスネやビゼーといった著名なオペラ作曲家と同級生でした。音楽院在学中から、父親のオーケストラで演奏する機会も多く、パリの音楽界で徐々にその名を知られるようになります。

28歳の時、ナポレオン3世の皇后ウジェニーの宮廷ピアニストに任命され、宮廷の舞踏会で楽団を指揮するようになります。第二帝政崩壊後も、エリゼ宮での舞踏会で演奏を続けました。しかし、この頃のワルトトイフェルは、まだフランスの上流社会の一部でしか知られていない存在でした。

転機が訪れたのは1874年。英国皇太子（後のエドワード7世）が彼のワルツ『マノロ』を気に入り、イギリスで紹介したことがきっかけで、ロンドンの出版社と長期契約を結ぶことになります。その後、ワルトトイフェルの作品はヴィクトリア女王の前で演奏され、ロンドンの音楽界を席巻し、世界的な名声を確立しました。この時期に、『スケートをする人々』など、彼の代表作が次々と生まれています。

ワルトトイフェルは、ロンドン、ベルリン、パリなどヨーロッパ各地で演奏活動を行い、1899年に引退するまで、フランス大統領主催の舞踏会でダンス音楽を作曲・指揮しました。

作風と評価

ワルトトイフェルの音楽は、ヨハン・シュトラウス2世とは異なり、ヴァイオリンではなく指揮棒で楽団を指揮したこと、作曲をピアノで行い、後からオーケストレーションを施したことが特徴です。彼のオーケストレーションは2管編成を基本としつつも、金管楽器を効果的に使用しています。シュトラウスの作品に比べると、ワルトトイフェルの音楽は、より洗練された和声と優雅な旋律が特徴的です。

しかし、彼の音楽は革命的とは言えず、印象派音楽が主流になると、時代に取り残されていきました。今日では、ロベルト・シュトルツやヴィリー・ボスコフスキーといったシュトラウスのスペシャリストたちが彼の作品を録音し、ドイツを中心にその業績が伝えられています。日本でも、『スケートをする人々』がBGMとして親しまれ、歌としても愛されています。

主要作品

ワルツ
『テレサ』または『アントワネット』 Térésa (Antoinette) op.133 (1864)
『すみれ』 Violettes op.148 (1876)
『私の夢』 Mon rêve op.151 (1877)
『ポモーヌ』 Pomone op.155 (1877)
『水の妖精』（シレーヌ） Les Sirènes op.154 (1878)
『恋は一筋に』 Toujours ou jamais op.156 (1878)
『愛しの彼女』 Très jolie op.159 (1878)
『ダイヤモンドの雨』 Pluie de diamants (Pluie d'or) op.160 (1879)
『スケートをする人々』（スケーターズ・ワルツ） Les Patineurs op.183 (1882)
『女学生』 Estudiantina op.191 (1883)
『スペイン』 España op.236 (1886)
ポルカ
『草上にて』 Dans le champs op.125 (1868)
『美しい唇』 Bella bocca op.163 (1879)
『トリック・トラック』 Tric-trac

エミール・ワルトトイフェルの音楽は、華麗で優雅なワルツを中心に、聴く人を魅了する魅力に満ちています。彼の作品は、時代を超えて、今もなお世界中で愛され続けています。

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