エメラルドの伝説

エメラルドの伝説

「エメラルドの伝説」（エメラルドのでんせつ）は、1960年代後半の日本の音楽シーンを彩った人気グループ、ザ・テンプターズが1968年にリリースした3枚目のシングル楽曲です。

同年6月15日に発売されたこのシングルは、彼らのキャリアにおける最大の成功作となりました。発売からおよそ1ヶ月後にはオリコンチャートに初登場し、いきなり6位にランクイン。さらにそのわずか2週間後には、見事チャートの首位を獲得しました。この楽曲は、オリコンの記録において、ザ・テンプターズのシングルとしては最も多くのセールスを記録した作品であり、累計売上は46.2万枚に達しています。

楽曲制作の背景

ザ・テンプターズはそれまで、主にメンバーの松崎由治が作曲を手がけた楽曲を中心にリリースしていました。しかし、所属するフィリップス・レコードのディレクター陣は、グループのさらなる飛躍とヒットの継続について新たな方針を模索していました。彼らは、当時の音楽シーンで注目を集め始めていた気鋭のクリエイターたちに楽曲制作を依頼することを決定します。こうして、作曲家として村井邦彦、作詞家としてなかにし礼に白羽の矢が立てられました。

作曲を担当することになった村井邦彦は、制作にあたりフランス印象派の音楽からインスピレーションを受け、神秘的でロマンチックな雰囲気を纏った楽曲の世界観を構築することを目指しました。そして、この美しいメロディーに独自の色彩を加えたのが、編曲を手がけた川口真です。川口は、従来のポピュラー音楽の編成に加えてストリングスを多用し、さらにホルンやオーボエといった管楽器を取り入れることで、楽曲に深みと荘厳さをもたらす独自のサウンドアレンジを生み出しました。

一方、作詞を依頼されたなかにし礼に対して、ディレクターの本城和治は、ザ・テンプターズのリードボーカルを務める萩原健一が持つ独特の存在感、特に彼の「神秘的な魅力」を歌詞の中に強く反映させることをリクエストしたと伝えられています。また、興味深い逸話として、本城は同時期に別の楽曲である『キサナドゥーの伝説』の日本語詞をなかにし礼に依頼したばかりだったため、「伝説」という単語が重なる本作のタイトルを採用することに、当初はややためらいがあったとも語られています。

収録曲

このシングルに収録された楽曲は以下の通りです。

エメラルドの伝説（The legend of emerald）
ソロボーカルは萩原健一。
作詞：なかにし礼
作曲：村井邦彦
編曲：川口真
僕たちの天使（Our angels）
ソロボーカルは松崎由治。
作詞・作曲：松崎由治

後世への影響とカバー

「エメラルドの伝説」は、その印象的なメロディーと詩的な歌詞、そして萩原健一の情感豊かな歌声によって、当時のリスナーに強いインパクトを与え、グループサウンズを代表する楽曲の一つとしての地位を確立しました。ザ・テンプターズの最大のヒット曲となったこの楽曲は、その後も多くのアーティストによってカバーされ、世代を超えて歌い継がれています。

主なカバーアーティストとしては、シングルの発売と同じ1968年に奥村チヨがアルバム『チヨとあなたの夜』で、1971年にはジャッキー吉川とブルー・コメッツがアルバム『G.S.R.』でそれぞれ取り上げています。さらに時代が下ってからも、メイジャー・チューニング・バンド（1977年）、ザ・マイクハナサーズ（1989年）、Mi-Ke（1991年）、近田春夫&ハルヲフォン（2008年）、そして桑田佳祐（2014年、映像作品）、The KanLeKeeZ（2016年）、吉幾三（2019年）、レーモンド松屋（2019年）といった、多岐にわたるジャンルや世代のアーティストたちによってカバーまたは歌唱されており、その普遍的な魅力が証明されています。

この楽曲は、1968年という特定の時代背景の中で生まれたものですが、その芸術性と商業的成功の両面において、日本のポピュラー音楽史に確かな足跡を残しています。

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