エリカの花散るとき

1963年2月、歌手・西田佐知子によって発表された歌謡曲が「エリカの花散るとき」です。この楽曲は、ポリドール・レコード（現在のユニバーサルミュージック）からシングル盤（品番：DJ-1288）としてリリースされました。

興味深いのは、この楽曲がシングルのメインとなるA面曲ではなかったという点です。A面には「浜辺と私」という曲が収録されており、「エリカの花散るとき」はB面曲として世に出されました。しかし、発売後に有線放送などを通じて徐々に評判が高まり、幅広い聴衆から注目を集めるようになります。その人気を受け、西田佐知子は同年12月31日に放送された『第14回NHK紅白歌合戦』に出場し、この曲を披露しました。西田にとっては3回目の紅白出場となりました。

第14回NHK紅白歌合戦は、日本のテレビ放送史において特別な意義を持っています。この回は、現存する紅白歌合戦の映像記録の中で、ほぼ全編が残されているものとしては最も古い回とされています。そのため、この日の西田佐知子による「エリカの花散るとき」の歌唱シーンも貴重な映像として現在に伝えられています。

楽曲のタイトルにもなっている「エリカ」とは、ツツジ科の低木、エリカ属に分類される花の名前です。歌詞には「伊豆の山々」という地名が登場することから、物語の舞台は静岡県の伊豆地方であると考えられています。哀愁を帯びたメロディに乗せて描かれる情景は、聴く者に強い印象を与えました。

この楽曲の作詞は水木かおる、作曲と編曲は藤原秀行が手がけています。この作詞・作曲コンビは、西田佐知子のもう一つの代表曲であり、大ヒットとなった「アカシアの雨がやむとき」も手がけており、「エリカの花散るとき」は彼らが再び組んで生み出した作品です。演奏はポリドール・オーケストラが担当しました。

「エリカの花散るとき」は、その人気と楽曲の質の高さから、シングルの枠を超えて多くのリスナーに届けられてきました。その後の西田佐知子のキャリアを語る上で重要な位置を占める楽曲となり、数多くのアルバムに収録されています。発売された年代順にいくつか例を挙げると、『西田佐知子 アカシアの雨がやむとき』（1993年）、『全曲集』（1994年）、『西田佐知子全曲集』（1999年）、ユニバーサルミュージックから発売された『GOLDEN☆BEST』シリーズ（2003年ほか）など、ベスト盤や全集といった企画盤には欠かせない楽曲として選ばれ続けています。近年においても、様々な形でリスナーに届けられています。

また、「エリカの花散るとき」はその叙情性ゆえに、多くの歌手によってカバーされています。主な例としては、女優の秋吉久美子がアルバム『秋吉久美子』（1975年）で、歌手の舟木一夫がアルバム『花もよう』（1976年）でそれぞれこの曲を取り上げています。比較的新しい年代では、あさみちゆきがアルバム『あさみのうた 〜港のカラス〜』（2004年）で、八反安未果がアルバム『忘れないわ』（2007年）で、松原健之がアルバム『旅立つ季節に』（2010年）でカバーするなど、世代やジャンルを超えて歌い継がれている楽曲と言えます。

このように、「エリカの花散るとき」は、シングルのB面曲から予期せぬヒットを遂げ、紅白歌合戦での披露を経て、西田佐知子の代表的なレパートリーの一つとなった楽曲です。美しい自然を背景にした切ない情景描写とメロディは、発表から長い年月を経た現在も多くの人々に愛され続けています。

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