エリザベス・バレット・ブラウニング

エリザベス・バレット・ブラウニング（Elizabeth Barrett Browning、1806年 3月6日 - 1861年 6月29日）は、19世紀ヴィクトリア朝時代のイングランドを代表する詩人の一人です。後に著名な詩人ロバート・ブラウニングの妻となり、その波乱に満ちた生涯と情熱的な詩作で広く知られています。彼女は、当時の英国文学界において女性詩人として確固たる地位を築き、英国桂冠詩人の候補にも名を連ねるほどの評価を得ていました。

生涯の始まりと豊かな学び

イングランドのダラム州に生まれたエリザベスは、快適で恵まれた家庭環境で少女時代を過ごしました。病弱ながらも知的好奇心に溢れ、正規の学校教育を受けることは少なかったものの、古典語への強い関心から、ギリシャ語やラテン語を独学で習得するなど、非常に優れた教育を受けました。その文学への傾倒は早くから芽生え、わずか14歳で叙事詩『マラトンの戦い』を自費で刊行しています。この早期の創作活動は、彼女の非凡な才能を示すものでした。

運命の出会いと情熱的なロマンス

エリザベスの人生に転機が訪れたのは、1845年のことでした。彼女の詩作に深い感銘を受けた詩人ロバート・ブラウニングが、熱烈な手紙を送ったのです。これがきっかけとなり、二人の間には詩を通じた精神的な結びつきが生まれ、約2年間にわたって574通にも及ぶ情熱的な書簡が交わされました。この膨大な往復書簡は、二人の深い愛情と知的な交流の証として、文学史上でも非常に有名です。エリザベスの厳格な父親は娘の結婚に強く反対していましたが、愛を貫く決意をした二人は、1846年9月に密かに結婚し、エリザベスの健康療養を兼ねてイタリアへと駆け落ち同然で移住しました。この劇的な結婚とイタリアでの新生活は、彼女のその後の創作活動に大きな影響を与えることになります。

イタリアでの詩作と主要作品

温暖な気候のイタリア、特にフィレンツェでの生活は、エリザベスの健康を回復させ、創作意欲を刺激しました。夫ロバートとの深い愛情と精神的な結びつきは、彼女の詩作に新たな境地を開きました。彼女の最も有名な作品の一つに、1850年に発表されたソネット集『ポルトガル語からのソネット』があります。これは、表向きはポルトガル語からの翻訳という形式をとっていますが、実際には夫ロバートへの熱烈な愛の告白を綴った全44篇からなる連作ソネットです。この詩集は、その感情の深さと芸術性の高さから、現在でも広く愛されています。また、女性の視点から社会問題や芸術家の葛藤を描いた長編詩『オーローラ・リー』（1857年）も代表作として挙げられ、当時の社会規範に囚われない女性像を描いた作品として注目されました。

晩年と永眠

イタリアでの生活は比較的穏やかでしたが、エリザベスの健康状態は常に万全ではありませんでした。しかし、愛する夫や息子（ロバートとの間に儲けた一人息子、ペニン）との生活は、彼女に安らぎと幸福をもたらしました。彼女はイタリアで精力的に執筆活動を続け、社会的な不正や政治的な問題にも関心を寄せました。1861年 6月29日、エリザベス・バレット・ブラウニングは、夫ロバートに看取られながら、イタリアのフィレンツェで55年の生涯に静かに幕を下ろしました。彼女の遺体は、現在もフィレンツェにあるプロテスタント墓地に埋葬されており、多くの文学愛好家が訪れています。

後世への影響

エリザベス・バレット・ブラウニングの詩は、ヴィクトリア朝における女性の感情や経験を率直に表現したことで、後世の文学に大きな影響を与えました。彼女の劇的な生涯、特にロバート・ブラウニングとのロマンスは、多くの人々の心を捉え、様々な形で語り継がれています。例えば、1934年のアメリカ映画『白い蘭』（原題：The Barretts of Wimpole Street）では、彼女の物語が描かれ、名女優ノーマ・シアラーがエリザベスを演じました。また、ヴァージニア・ウルフの実験的な伝記小説『フラッシュ或る伝記』は、ブラウニング夫妻の飼っていた犬の視点から彼らの生涯を描いており、エリザベスが登場します。

エリザベス・バレット・ブラウニングは、その生涯を通じて、病弱ながらも強い意志と豊かな感受性をもって詩作に打ち込み、英国文学史にその名を刻みました。彼女の作品と人生は、現在も多くの人々に感動を与え続けています。

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