エリック・カール

エリック・カール

アメリカを代表する絵本作家、エリック・カール（1929-2021）は、その革新的な技法と生き生きとした色彩感覚によって、世界中の子どもたちと大人を魅了し、「絵本の魔術師」と称されました。彼の作品は、遊び心あふれる物語と、視覚に訴えかけるユニークな絵が見事に融合しています。

カールの絵本の特徴は、何と言っても彼が生み出したコラージュ技法にあります。まず薄紙に様々な色を塗り重ね、乾かしてからそれを切り抜き、貼り合わせて一つの絵を完成させます。特に、ニスを塗った紙に指や筆で直接色を乗せていく手法は彼独自のものです。この技法から生まれる、大胆で鮮やかな色使いと豊かなテクスチャーは、登場する動物や植物に強い生命感を与え、読者の想像力をかき立てます。

1929年にニューヨークで生まれたカールは、両親の故郷であるドイツで少年時代を過ごし、シュトゥットガルト造形美術大学で美術を学びました。第二次世界大戦後、再びアメリカへ戻り、グラフィックデザイナーとしてキャリアをスタートさせます。この頃、後に著名な絵本作家となるレオ・レオニとの出会いが、彼を絵本の世界へと導く転機となりました。1967年、ビル・マーチンJr.の文章による『くまさん くまさん なにみてるの？』のイラストレーションを担当し、絵本作家としてデビュー。翌年発表した初の自作絵本『1、2、3 どうぶつえんへ』は、その斬新さが評価され、1970年のボローニャ国際児童図書展でグラフィック大賞を受賞するなど、早くから才能を発揮しました。

そして1969年、彼の名を世界に知らしめることになる代表作『はらぺこあおむし』（The Very Hungry Caterpillar）が誕生します。この作品は、小さなあおむしが食べ物を次々に食べ進み、美しいちょうちょに変身するまでの物語を、穴開きの仕掛けと鮮やかな絵で描いています。シンプルなストーリーながら、生命の神秘や成長の喜び、そして数の概念などを学ぶことができるこの絵本は、瞬く間に世界中の子どもたちの心をつかみました。現在までに70以上の言語に翻訳され、全世界での累計発行部数は5500万部を超え、世代を超えて読み継がれる不朽の名作となっています。

1971年からは絵本製作に専念し、その後も精力的に作品を発表し続けました。『ごちゃまぜカメレオン』、『ちいさいタネ』、『パパ、おつきさまとって』など、代表作は多岐にわたります。彼の絵本は、自然の営み、動物たちの生態、友情、そして自己肯定感など、子どもたちが成長する上で大切なテーマを温かい視点から描いています。物語と絵が一体となった彼の作品世界は、子どもたちの知的好奇心と感性を豊かに育みます。

カールは国際的にも活躍し、1985年には日本を訪れています。2002年にはマサチューセッツ州にエリック・カール絵本美術館が開館し、絵本という芸術形式の重要性を広める活動にも貢献しました。長年の功績が称えられ、2003年にはローラ・インガルス・ワイルダー賞を受賞しています。日本においても彼の人気は高く、多くの作品が翻訳出版され、2021年には彼のアートを取り入れた屋内施設『プレイパーク エリック・カール』もオープンしました。

2021年5月23日、腎不全のため91歳で惜しまれながらこの世を去りましたが、エリック・カールが遺した色鮮やかで心温まる絵本の数々は、これからも世界中の子どもたちに夢と希望を与え続けることでしょう。

代表的な絵本（一部）

くまさん くまさん なにみてるの？ (Brown Bear, Brown Bear, What Do You See?、1967年)
はらぺこあおむし (The Very Hungry Caterpillar 1969年)
ホットケーキできあがり！(Pancake, Pancake、1970年)
ごちゃまぜカメレオン (The Mixed-up Chameleon)
ちいさいタネ (The Tiny Seed)
やどかりのおひっこし (A House for Hermit Crab)
パパ、おつきさまとって (Papa, Please Get the Moon for Me)
だんまりこおろぎ (The Very Quiet Cricket)

もう一度検索