エリンバー

エリンバー合金：温度変化に強い精密機器の心臓部

エリンバー（Elinvar）は、温度変化による弾性変化が極めて小さい特殊合金です。その名の由来は、フランス語の「élasticité invariable」（弾性不変）を略したもので、その特性を表しています。日本では、恒弾性合金や弾性不変鋼とも呼ばれています。

エリンバーの大きな特徴は、温度が変わっても弾性がほとんど変化しない点にあります。これは、合金を構成する金属の種類と比率によって、縦弾性係数の温度変化と剛性率の温度変化が互いに打ち消し合う効果によるものです。そのため、精密な動きが求められる機器に最適な素材と言えるでしょう。

エリンバーの組成と種類

エリンバー合金には、様々な組成が存在します。代表的なものとして、ニッケルとクロムを鉄に添加した合金が挙げられます。例えば、ニッケル36％、クロム12％、鉄の合金や、ニッケル42％、クロム5.5％、チタン、鉄の合金などが知られています。それぞれの組成によって、弾性特性や耐熱性などが異なります。

エリンバーの応用と歴史

エリンバー合金は、その優れた特性から、精密機器、時計、センサーなどの分野で広く利用されています。特に、時計のバネや、精密測定機器の部品など、温度変化による影響を受けやすい用途に適しています。

エリンバー合金の研究は、1920年にフランスの化学者シャルル・エドゥアール・ギヨームが、鉄にニッケル36％、クロム12％を加えた合金を発見したことに始まります。この発見は、高価な90％プラチナ-10％イリジウム合金で作られていたメートル原器に代わる、安価で安定したメートル二次原器の開発につながりました。

エリンバーと類似の合金

エリンバーと似た特性を持つ合金として、インバーやバイメタルなどが挙げられます。これらの合金も、温度変化に対する弾性の変化が小さいという特徴を持ちますが、エリンバー合金ほど精密な用途には適していない場合があります。

エリンバーの今後の展望

現在でも、エリンバー合金は精密機器や時計産業において重要な役割を果たしています。しかし、更なる高精度化や多様な用途への展開に向けて、新たな合金開発や特性改善の研究が継続的に行われています。例えば、非晶質エリンバー合金の研究も進められており、今後の更なる発展が期待されています。

参考文献

* 菊地紀雄, 深道和明, 増本健、「非晶質エリンバー合金とその応用」 『日本金属学会会報』 1981年 20巻 12号 p.1004-1013, doi:10.2320/materia1962.20.1004

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